第二話『変えない過去』

二年前

 それはいまから二年前の四月のことだった。

 フリージャーナリストのガイ・ヒロサキは、中東のとある国へと足を運んできていた。

 その時期、そこでは水による戦争がおこっていた。ここのここまでがこちらの水源だ、いやそこはこちらの水源だ。というような言い争いが、内紛を勃発させていた。

 それをやめさせる、平等な水源を作る、と言い出したのが暁だった。

 ガイ・ヒロサキは、今回の戦争もおそらく暁の自作自演なのではないかと睨んでいた。

 暁のなかには魔法使いたちがいて、その魔法使いたちがさまざまな罠を仕込むのだ。

 そうすることで奇跡というものは起きて、人びとは暁を崇拝する。

 あるいはだれもが暁に救われたとは思えない展開でも、国家レベルとなれば暁に救われたと思わせることが可能な場合もある。

 そういったときには、その国家は、暁の自作自演だとわかっていながらも、その暁に感謝しなければならないという状況だったりもする。

 暁は、みずからの利益となる場合にのみ顔を出す。

 そうしたことが、いったいどれだけのあいだ続けられてきたのか。それは、だれにもわからない。それはきっと暁の人間たちのみが知る事実に違いない。一般人には知る由もないのだ。世界の闇はけっして見られないものなのだ。いや、あるいは知らなくてもいい事実なのである。

「どんな状況においても、人類という生物は、奇跡をもとめているものなのだよ」

 少年か少女かわからないその子供はそう英語でガイ・ヒロサキに話した。ちなみにいま、なぜ日本語なのかというと、それはガイ・ヒロサキの脳内が日本語で再生しているからである。

 ガイ・ヒロサキは、暁のメンバーと接触することに成功した。暁に取材したいと申しこむと、なんと返事が返ってきたのだ。ガイ・ヒロサキはとても喜んだ。こんなチャンスは、滅多に得られないだろう。だが、同時に疑問もいだいた。なぜ、こんな自分とコンタクトを取ろうと思ったのだろうか? まあ、なんにせよ聞ける話はすべて聞くつもりである。

「だから、ボクらが奇跡をおこしてあげるんだ。たしかに、そうすることでボクらにはおおきな金が入ってくるね。でも、ボクらはそれを悪い方法で使ったりしないよ。それは、あくまでも、生活費にあてているだけなんだ」

「そう、ですか……」

 相手は本当にちいさな子供だった。足が悪いようで、車イスに乗っていた。はじめ、ガイ・ヒロサキはその子がやってきたときにまさか暁の人間ではないだろう、とうたがった。だが、その子はみずからは暁の人間でそして暁のリーダーだ、と名乗ったのだ。まあ本当かどうかはわからないが。

 しかし、その子の話の信憑性は高かったように思えた。どの話もガイ・ヒロサキの心をえぐるような内容ばかりで、ガイ・ヒロサキのメモ書きはとまることがなかった。

「一般的な魔法使いの組織とちがい、ボクらはだれかの暗殺を受けたりもしない。良心的な組織だろう? ボクらは決して、人は殺さないんだ」

 とはいうものの、彼らは間接的に他人を殺害し続けてきたのである。だからこそ、彼らは犯罪組織と呼ばれ続けてきたのだ。世界各地で代理戦争をはじめているのは、まぎれもなく彼らの組織なのだ。

「そして、われわれはこれから世界に魔法のちからを見せつけようと思う」

「魔法のちからを、ですか……?」

「そう、魔法のちからをだよ。われわれは、つぎなる段階へすすむんだ。奇跡は、さらなる奇跡を生み出すと、われわれは強く信じている」


 その約一年後、暁はなぞの消滅を遂げた。

 あの子のその後のことはわからない。

 そしてガイ・ヒロサキはいま、日本の仙台という街に来ている。

 ガイ・ヒロサキは、暁の事件を追い続けていたのだ。

 暁が消滅してしまったいま、ガイ・ヒロサキはその暁を消滅させたという少年のあとを追っていた。

 独自に入手した情報を頼りに、この仙台という街でその少年を見つけ出すつもりだった。

 まあ、一種の賭けである。

 その上、この取材はいっさい金にならない。

 たとえ暁を壊滅したかもしれない少年を見つけだしたところで、それをだれが信じるというのか。

 だが、ガイ・ヒロサキはそれでもその少年を見つけださなければ気が済まなかった。

 おそらく、それは、ガイ・ヒロサキのジャーナリスト精神がそう突き動かしているのである。

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