ぷうあん

 テレポートし、定禅寺通りへとやってきた。定禅寺通りは交通量のおおい通りだった。この定禅寺通りという道は、仙台市の並木道を象徴とするような場所だった。並木は、道ぜんたいをおおっていて、おおきな影を作っていた。定禅寺通りは、道路のあいだに歩道が延びている一風変わった場所である。通り全体が薄暗い理由は、そうして並木道が三列ならんでいるからだ。冬の季節には、有名なページェントがおこなわれた。

 イリヤは、シャルナとふたりで勾当台公園に振りかえった。定禅寺通りに面した勾当台公園はいま、真っ赤な壁でおおわれていた。

「城之内さくらの第一魔法による結界。一般人が慌てているように見えるのは、結界や結界の内側がなにもなくなってしまったかのように見えているから」

 イリヤは、公園のまわりにあつまっている野次馬たちに視線を向けた。野次馬があつまるのは、あたりまえのことだったのだが、そのほかにカメラを構えたりスマートフォンで撮影したりしている人たちがいて嫌悪感をいだいた。

 おそらく、そういった人たちは、動画投稿サイトなどに動画を載せたりするのだろう。それ自体を悪くは思ってないのだが、もしかするとすでに公園内部で死神を確保しているかもしれないということは、動画投稿者たちの知るはずもないことなのだが、それでもイリヤは嫌悪感をいだいてしまう。

「イリヤ」

「わかってる」

「イリヤがやれば、勝負は一瞬」

「だいじょうぶ、できるよ、シャルナ……。ぼくには、目標ができたんだ。それを、かならず成し遂げる……!」

 イリヤは、全身に魔力を集中した。周囲の人たちがいっせいにイリヤを振りかえった。水のように滑らかで綺麗な青色のオーラを纏った。そのオーラは周囲には見えないはずだ。だが、威圧のようなものを感じ取ったのか、なんだろうというふうに一般人たちは注目してくる。

「つかまって!」

 シャルナが、イリヤの手をぎゅっとにぎりしめてくる。

 イリヤは、テレポートする。

 ビルの屋上だ。

 結界のなかではなかった。フェンスのない、ただの平べったい薄汚れた屋上にたやってきて、イリヤは白髪の男になぐりかかった。

「なにい!?」

 ミラージュは突然、現れたふたりに振りかえり驚いた。

 イリヤは、そのミラージュのほおを思いっきりなぐりぬいた。

「うぐ」

 どたどた、とミラージュは屋上を転がった。

「あなたを始末させてもらう」

 イリヤは、戦う意志をかためていた。日常を守るためにはこのミラージュを始末しなくてはならないのだ。イリヤは自分のためには戦えなかった。だが、だれかを守るためならば全力で戦うことができた。それはイリヤのなかで芽生えたあたらしい感情だった。たとえ、みずからの身がほろびようとも、この敵を仕留める。

「気づいていたのか……」

「ぼくらをなめないでほしい」

「ふん、だからといって、このわたしを殺すことはできないのだろう?」

 ミラージュがゆっくりと立ちあがった。

「殺さなくても、食い止めることはできる」

「食い止める? はっはっは。わたしの第一魔法の能力も知らずに、そんな口を聞くか。滑稽だな!」

「言っておくが、いまのぼくは本当にさっきまでのぼくとは違うよ」

「そんなに早く、人が変われるものか!」

(シャルナが戦えば、きっと思い出せるって言ってくれた。ぼくは、それを信じてこの男と戦うしかない……!)

 戦えば、以前の第一魔法の名前を見つけ出せる。

 そう、シャルナは言ってくれたのだ。

 第一魔法名がわからない以上、その魔法を、一〇〇パーセントのちからで発揮することはむずかしいらしい。

 それゆえに、イリヤはこのミラージュという男を全力で叩きにいかなければならない理由があった。

 みんなを守るのと同時に、自分の魔法を全開で発動したかった。

 そうしなければ、なにも守れないかもしれないとイリヤは悟ったのだ。

「思い出したところで、どうにはなる話でもあるまい。つねにわたしが優勢なのだぞ、定禅寺イリヤ」

「ぼくは、仲間を信じている」

「わたしは、だれも信じない」

「信じれば、きっと人生はたのしくなるのに」

「説教するか。貴様が、すべてをうばったんだろうが!!」

「さあね、ぼくにはわからないことだから」

「クソ野郎……。ぜったいに、殺してやる!」

「どうせ、暁という組織を使って、好き勝手やろうとしていただけなんでしょう。そんなの、ゆるされるわけないよ。すくなくとも、ぼくはゆるさない」

「貴様は、なにもわかっていない。この世界はしょせん、虚像だ。その虚像のなかでも、自由を手にしたいと思うものだろう? そうしなければ、ようやく本当のしあわせというものは見つけられない。たとえそのしあわせが虚像だとしても、わたしはそれが欲しいのだ。貴様は一生、苦しむことになるぞ。虚像のなかで、キズナという、無価値なものを見いだそうとしているからだ」

 そのとき突然、結界がひろがった。イリヤたちのビルを覆う。

「ふん、これで閉じこめたつもりか!」

「イリヤああああ!!」

 奈良崎大地のさけぶ声が聞こえた。はっと眼下を覗くと、公園の広場に彼の姿があった。彼だけではなく、カンナや木田佳乃の姿もある。そのほかの人たちは日本魔法捜査本部の人たちや私服・制服警官の人たちだろう。そしてひとりだけ糸状のなにかで拘束されている人がいる。もしかするとその人物が吉良光太郎という青年かもしれない。

「拘束弾を放出するスナイパー使いがいるのか」

 ミラージュがちらっとどこかを睨むように言った。

 その直後だ。

 ミラージュに、一発の弾丸がヒットした。

 どうやらミラージュの言ったとおりに、それは拘束弾というもののようで、彼は糸状の魔力で縛りつけられた。

「く、かたいな。並大抵の魔力では、断ち切ることはできない、か」

 だが、なぜだろう。ミラージュは拘束あれてもまったく気にする様子がない。おかしいぞ、とイリヤはうたがった。

「下へ降ろせ、イリヤ!!」

 イリヤは、奈良崎大地の命令を実行した。シャルナとミラージュのふたりに意識を集中すると、ともに空間移動した。


「貴様、暁か」

 奈良崎大地が、言った。勾当台公園の広場にはコンサートステージが設けられていた。催しのある季節となると、いつも有名人がコンサートを開く。そのステージ手前に、ふたりの拘束者をならべた。一方は、白髪のミラージュで、もう一方は黒い仮面をかぶった青年風の男だった。どちらも、瘦せている。そして、どちらも微量の黒い魔力を放っている。

「うん? 貴様、良い魔力を放つな」

「おれの話など、どうでもいい」

「ふん、早く連行するがいい」

 日本魔法捜査本部のメンバーたちは黙りこんでいた。皆、奈良崎大地隊長の命令を待っていたのだ。それはほかの警官たちもそうだった。

「れ、連行しますか……?」

 ひとりの私服警官の男が奈良崎大地にそう尋ねた。

「連行しろ」

 奈良崎大地はすこしの間をあけて、そう言い放った。


 ふたりの容疑者が、車で連行されていく。その車が発進し、道の向こうまで走っていって見えなくなるまで、イリヤたちの緊張はまったく解かれなかった。

 だが、車が見えなくなってもだれひとりしゃべりだしたりしなかった。広場内の雰囲気は、ずっと重苦しいものだった。

 結界は、解かれていた。あたりに見えていた動画配信者たちは、突然に出現した勾当台公園におどろいていたが、その公園内にいたイリヤたちにおどろくことはなかった。

 なにかの催し程度に、思ったようだ。動画配信者たちにとって、今日いちばんたいせつだったのは死神通り魔事件である。

 彼らは、死神を追いかけているのだ。広場には死神はいなかった。彼らがここにいる理由はなくなった。

 日本魔法捜査本部のメンバーたちは、動画配信者たちを警戒していた。カメラを取りあげようという話もかわしていたが、しかしそうなることはなかった。彼らは去っていったのである。

 私服警官たちが、奈良崎大地を取りかこむようにあつまってくる。なにかの話しあいがはじまろうとしていた。だが、おかしなことに私服警官たちはなにも言いださない。じっと立っているだけで。その上、私服警官たちの表情はどこか暗かった。

「どうした?」

 突然、私服警官たちが空中からナイフを出現させた。魔法だ。奈良崎大地は、とっさに身構えたが、すでに遅かった。

 五本のナイフが、奈良崎大地を突き立てた。

「た、隊長!?」

 奈良崎大地が倒れた。その場は一瞬で、凍りついた。城之内さくらが、急いで結界を張った。

「【完全擬態】」

 シャルナがちいさな声で言った。

 吉良光太郎なのか。私服警官たちが、吉良光太郎と入れ替わっていたのだろうか。吉良光太郎にとっていちばんやっかいだった人間が、奈良崎大地だったということだろうか。イリヤは短い時間のなかでそう推測する。

 吉良光太郎の第一魔法【完全擬態】能力は、なにかを現実化したりする魔法である。宇宙人のような造形から、宇宙船までも現実化することができる。なにからなにまでが完全擬態とすり替わっているかは判断できない。吉良光太郎は事前に私服警官たちのなかに擬態魔法を紛れこませていたのだろう。それに気づけなかった奈良崎大地が悪いということだろうか……。たしかに彼らはあまかったかもしれない。だが彼らが悪いとはイリヤは思わない。

「動くな!」

 式部草紙が声をあげた。式部草紙は、第一魔法であろう【魔法銃】を出現させた。アサルトライフルのような形をしたそれを、私服警官たちに向けた。「おれのせいで……」と眼鏡をかけた式部草紙は下唇を噛んだ。

 私服警官たちが、式部草紙に振りかえりった。両手をあげ、ナイフを捨てた。五人だ。私服警官は、五人いた。五人ものかんぺきな人間を同時に作成しているということになる。それは脅威以外のなにものでもなかった。だれが敵で、だれが味方なのか。イリヤはすでに判断すらできない状況である。

「く、くそう。擬態は一体だけじゃなかったのか……!」

 式部草紙が嘆いた。どこか、わざとらしく。

 木田佳乃が、奈良崎大地の安否を確認しに駆け出す。式部草紙が、私服警官たちをステージの方向へ歩かせる。膝をつかせ、両手を頭の上へあげさせる。

「まだ生きてます……!」

「急いで、見つけて」

 シャルナがみんなにうながしてきた。

「シャルナ、敵の位置は!?」

 カンナがきいた。

「仮面は隠せない」

「いないじゃない、その仮面の男が……!」

 たしかにカンナの言う通りだった。仮面をかぶった男など、この公園内には存在しない。

 おそらく、コーヘイがスカイプで木田佳乃に拘束弾を撃つ、というような意味合いの言葉を発したのだろう。五人の私服警官たちが、糸状の魔力で拘束された。

「いいぞ、コーヘイ……!」

 神経質になっている式部草紙が言った。

 だが、いまこそ冷静であらなければならないだろう、とイリヤは思った。

(ざわつく……)

 イリヤは、潜在的敵意を感じた。

 イリヤこそ、冷静ではなかったかもしれない。

 仮面の男は、どこにも見られない。だが、この公園内にかならず存在する。潜在的ななにかが、そう感じさせるのだ。

(冷静になるんだ。敵はどこかに隠れて……)

「それ」

 シャルナが鋭い口調で言った。イリヤは意識のなかでシャルナに振りかえった。

「ひろがる、意識が……!」

 シャルナは声をあげてそう言った。

「なに、なんなの。なに言ってんのよ、シャルナ!?」

 カンナが割りこんでくる。

「もうすこし。もうすこしで、わかりそうな気がする……」

 シャルナがつぶやく。

「なにがわかるっていうのよ!?」

「イリヤ、あともう一歩……!」

 シャルナの言葉で、イリヤはさらに集中した。だんだんとまわりの空間が自分の意識と一体化していく感覚がやってきた。そしてその意識のなかでなにかを見つけた。二本の剣……?


「その、一体感……」

「うん、一体感だ……」


 式部草紙のアサルトライフルが、大鎌へとかたちを変えた。奈良崎大地へ、必死に声をかけるふたりの女性の背後を、式部草紙がおそいかかろうとする。

「第二魔法によってみずからの姿も変化できるまでに成長していた……!」

 シャルナの声で発破をかけられ、イリヤとカンナはたんっと駆けだした。

「貴様らも魔法使いなのか」

 式部草紙は不気味な笑みを浮かべ、ふたりに振りかえってくる。大鎌を振ってくる。

 イリヤとカンナのふたりは、刈り取ってこようとする大鎌を避け、コンビネーションを叩きこむ。

「たああああああ!!」

 カンナが式部草紙の脇腹に蹴りを入れ、よろめいたその式部草紙に、イリヤがタックルする。

 倒れこんだ式部草紙は、悪魔のように笑った。

「ククククク」

 黒い魔力を放ち、その姿を変化させた。

 立ちあがった式部草紙の体形が、ちいさくなっていく。体形はひと回りほど縮小し、肌の色も、髪型も変わっていく。黒いローブのようなものを羽織り、最後に顔に黒い仮面をかぶった。まさに男は死神の姿となったのだ。

「注目がほしいだろう? フフフ」

 それが本来のその男の姿なのだろう。そして覚醒の仮面を隠せるだけの魔法能力者ということとなる。それはおそらくシャルナの予想を越えていただろう、と思う。

「だけど、この結界みたいなもののせいで注目されないね。にげることもできないし。ヒヒヒ」

「注目させないし、にがさないわ」

「怖いなあ、きみ。友達いないでしょう?」

「いないわよ。けれど、あたしは人生に満足している」

「ヒヒヒ」

「シャルナ、あいつの生死は判別できる?」

「すでに死んでいる」

 カンナはそれを聞き、不敵な笑みを浮かべ、炎刀を取り出した。「わかったわ。ぶった斬っていいってわけね!」

 日本魔法捜査本部の女性メンバーたちも、カンナに任せていた部分はあっただろう。この場にはすでにカンナ以外に戦える人間はいないだろうと思っていただろうからだ。

「平気」

「わかったわ。覚悟しなさい、ゲス野郎!」

「ヒヒヒヒヒ。怖いなあ、怖いなあ」

 と、身体を揺らしながら笑う吉良光太郎へ、カンナは容赦なく炎刀を振った。赤いほのおの斬撃が飛びだし、吉良光太郎の片腕を切断した。

「あ、あれ……?」

 ぽろり。片腕が地面に落下する。血が出ない。やはり吉良光太郎は死んでいる。

「あんた、擬態能力以外は雑魚同然ね」

 だが、そんな余裕のカンナに向かってイリヤは叫んだ。イリヤにはわかっていたのだ。いや、そのことに気がついたのはイリヤだけだったかもいれない。

「カンナ、急いで始末するんだ……!」

「フフフ」

 だが、遅い。いつの間にか、吉良光太郎の擬態たちが、まわりを取りかこんでいた。広場内すべてを埋め尽くすかのような数の擬態である。彼に時間をあたえてはならなかったのである。そのことにイリヤだけが気づいていた。

「かこまれた……!?」

「本体を始末するんだ、カンナ!」

「わかってるわよ!」

 カンナが魔力を集中しはじめた。いや、だが、いまはそんな暇はない。速攻で本体を叩くか、まわりの擬態たちを破壊しなければならないからだ。イリヤは焦った。早く行動し直さなければ、全員、殺されるだろう。しかしカンナのその魔力を目の当たりにしてイリヤはおどろくこととなる。

「【クリスタル・ブレイド・ブレス】……!!」

 カンナの真っ赤な魔力が煌めきはじめた。火の粉を噴き出しはじめ、あたりを染めた。それらの火の粉はまるで桜の花びらのようだった。火の粉は赤ではなく、ピンクに染まっていたのだ。その桜の花びらたちが、刀身と、それからカンナの長い髪に貼りついていく。

「変わった……」

 そう、まさにカンナが変身したかのようにイリヤには見えた。まるでそれは魔力衣装である。昆虫の羽のようなピンクのほのおも、その変化を如実に表している。

「単純に、ほのおの形や色を変えたに過ぎない。でも、この形がカンナにとっていちばん扱いやすい形」

 カンナはふたたび、冷静さを取りもどしていた。「本体を見うしなったわ」

 だが、いまはそんな状況ではない。それはさっきと変わらないのだ。まわりの擬態たちはすでに迫ってきている。ナイフや鎌を握りしめて。ヒヒヒ、フフフ、わー、わー、と声をあげて。

 すでに、自分たちににげ場はない。カンナを先頭に、イリヤ、シャルナといて、その背後に木田佳乃たちがいる形だ。それゆえステージ側へにげることはできるが、そこへにげたところで全員が助かる保証はない。

「とりあえず、まわりの雑魚どもをぶった斬ることにする。いいわよね、イリヤ?」

 イリヤは呆けていて返事がかえせなかった。

 カンナが瞳を閉じてピンクのかたなを構えなおした。

「イリヤがあたしをおこらせなければ、こんなことにはならなかったのよ。ざんねんね、ゲス野郎」

「「「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねえええ。ヒヒヒヒヒ!!」」」

 吉良光太郎の擬態たちはまるでゾンビの群れのようにせまってくる。

 カンナが瞳をかっ開いた。たんっ、と一歩前へ足を踏み出し、

 しゅん――。

 風を切った。

 擬態の吉良光太郎たちが足をとめた。

 全員、胴体を真っ二つに斬られていた。

「ああ」「あわわ」「マジかあ」「すげえなあ!」

 ぼうっ、と吉良光太郎たちがいっせいに燃えあがった。それはまさにステージを眺める熱狂的な観客たちが燃えあがっているかのように見えた。

「まずい」

 シャルナがつぶやいた。

 イリヤは即座にそれを理解した。

「カンナ、シャルナ――!!」

 イリヤはとっさにふたりを抱き寄せた。

「な、なによ!?」

 カンナは恥ずかしそうに言ってくる。だが、そんなことにかまっている暇はない。

 吉良光太郎の擬態たちが爆発しはじめたのだ。仕込まれていたのだ、はじめから。そうなることがわかっていた上で。負けることがわかっていた上で。いや、吉良光太郎にとって勝ち負けなど関係なかったのかもしれない。彼は殺人を犯したかっただけなのかもしれない。

 イリヤは、空中へ瞬間移動し爆発を回避した。爆風がものすごい勢いでせまるなか、イリヤは木田佳乃たちの方向を確認した。だいじょうぶだ。どうやら木田佳乃は黒猫を大量に呼び出し爆発をガードしたようだ。遠くのほうに少数、残っていた制服警官たちも黒猫でガードできていた。全員、なんとか回避に成功したようだ。

 結界がはずれた。城之内さくらは爆発に悲鳴をあげ、結界をはずしてしまったらしい。だが、そのおかげでイリヤはさらに上空へにげることができた。

 高い空の上から、公園を見おろした。真っ白な煙で、もうすでになにも見えなった。

「助かったわ……」

「無事で良かった」

 たがいの身体は密着していた。だけどそれを気にする余裕はカンナにはなかった。イリヤもまた、ふたりを守るので、必死だった。

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