第6話 - アジャイル

 悲報。いや今までも悲報しか無かった気がするが、悲報。

 データベースの主キーが変わります。


 チャットに送信された連絡を二度見し、ソースを確認し、頭を抱える。できないと言ったのは誰だ。今から主キーを買えるってことはSQLほぼ全部書き換えることだとなぜわからない!!!!


「最近流行りのアジャイル(注:開発手法の一つ)ってあるじゃないですか、私あれやってみたくて!」

 今更。今更それを言うか。というかアジャイルをやるつもりなら俺に言わなくてどうする。

 いいですか中村さん、アジャイルというのはですね、お客様とチームと綿密に連絡を取りつつ最小構成でプログラムを組むことが大前提でですね、一方的な仕様変更をただただ受け入れることではないんですよ。

 そりゃ柔軟なプログラムを組めてない俺も悪い、けどそもそもデータベース設計から何から柔軟な仕様変更には対応できないレベルの複雑さでですね、フレームワークの機能だってあんたらの指示で軒並み死んでいてですね、俺は車輪の再発明どころか三角の車輪を転がすような仕事をしちゃってるわけですよ今。それをね、三角を四角にしますみたいな話をされてもですね、それはもはや柔軟性ではなくただの強引な変更なんです中村さんわかりますかわかりませんよね俺何一つ声に立ててませんもんね。

 ミスだ。これは完全に俺のミスだ。中村さんを甘やかして全部力技で解決してたから。ただPHPわかんないのでって言っちゃう人に何をどう共有すればいいのか、そのためにどれだけのコストを払いどれだけのリターンを得られるのかが不透明過ぎかつそれを面倒臭がってしまったのでうんやっぱり俺のミスだな俺のミスだ。いやでも中村さんだってアジャイルがやりたいなら先月時点で宣言してくれてもよかったんじゃないのか?

 怒りと呆れと当惑とが順繰りに脳裏をよぎって返事ができない。波ダッシュ使って全力で煽りに行きたい。そうなんですね〜〜〜〜頑張ってください〜〜〜〜〜くらいの返信がしたい。何なら芝も生やしたい。しかして相手は上司だ。幼女だけど。幼女だけど上司だ。さてどうしたものか。

 一分程度脳をフル回転させた結果として、「なるほどですね」という頭の悪い返事をひねり出して送信する。了解も承知もできないが認識はしておく、それくらいの返事。へえそうなんですか以上の意味は無い。

 正直これ以上かまうのも面倒だしデータベース変更の対応はしなきゃいけないしgit入れられなかったからサーバー機(とは名ばかりのノートパソコン)にファイルを移動してSQL書き換えて動作確認してとかいうクソみたいな手間を掛けてやらなくてはならない。別の上司が寄ってきて状況を聞くので掻い摘んで説明したら「それは時間取ってでもgit入れるべきだったんじゃない?」とか言い出してうるせえばかそんなの俺だってわかってるわ帰れこっちは忙しいんだ。無駄に。

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