第5話 - フロントエンド
URLにパラメータが増えるのは困るので画面だけでページングしてください。
こっちに菅原さん(注:関係会社のエンジニア)が書いたソースがあるのでこれをコピペでいいです。
中村さんからのメッセージを読んで俺は盛大にため息をつく。大きく息を吸う。
「でいいです」じゃあないんだよその方が面倒臭いんだよもともとフレームワークにある機能を何故わざわざ潰して他所のプロジェクトからコピペなんてしなくてはならないのか、そのテストにどれだけリスクとコストを割くハメになるのか、もう一度言うぞその機能はフレームワークにあるんだよ! 開発の手間を省くことはデバッグのコストを高めるんだよ!!
もちろん叫ばない。なにしろ会社内だ。
……オーケイ落ち着け俺、元のニヒルでクールな俺に戻るんだ俺。彼女のわがまますら聞いてやれないで何が彼氏だ。大丈夫。
大丈夫大丈夫と自分に言い聞かせながらメールの続きに目を通す。中村さんからの指示は箇条書きでいくつか来ている。
確認ダイアログを現在の「OK」「Cancel」から「はい」「いいえ」に変更してください。
……は。
……は?
俺は指示書を二度見し、それから影響範囲について考え、頭を抱える。わかった。これVB(注:ビジュアルベーシック。Windowsのアプリはこれで作られていることが多い)屋さんの指示だ。今回のサーバーも窓鯖だし今までのVBのシステムをWebで置き換えようとしてんだ。ダイアログの文字なんか一行でさくっと変えられると思ってんだ。
ふざけろいやふざけんな。そこブラウザの標準だこっちからじゃ変えられないんだ変えられないけど変えろって言うなら新しいプラグイン入れて全てのダイアログを修正しなきゃならないんだ何が「優先度:中」だこんなデカい変更入れやがっていやデカさがまずわかってないんだ向こう。ああ。
……ああ。
一瞬で沸騰した怒りは一瞬で収まっていき、俺は無の境地でチャット窓に文字を打ち込む。
「無理です。ブラウザのデフォルトなので変更できません。変更するなら新しいプラグインを入れて全ての画面に適用する必要があります。時間がかかります」
返信。
「お願いします」
だろうな。
お客様に問立てとかしてくれないもんなこの人。伝書鳩以下かよ。なんで機能が増えるわけでもないのにこんなリスクとコストをかけるんだ。馬鹿か。馬鹿なのか。
無論「馬鹿なのか」というわけにはいかず、説明する気力を失った俺はただ諾々とプラグインを入れ、すべての画面のダイアログを書き換え、コピペでページングを組み込んだ。っていうかこのページングで不具合が出たときは誰に責任が回るんだろうか?
二十二時過ぎに中村さんからの返信が途絶えて二時間が経つ。帰っていいのかどうかがわからない。二十四時ともなれば社屋ビルに人はおらず、外に出ることはできるが戻ることはできない(オートロックで閉め出される)ため、夕飯を買いに行くこともできない。そう、俺は昼飯からこちら食事を取っていない。ウォーターサーバーの水とミンティアで空腹をしのいでいる。眠い。お腹空いた。
結局そこから三十分なんの反応もなかったので一方的に「帰ります。明日の九時に出社します」とメッセージを送って、帰った。
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