その頃シリーズ① 教授とミィリーとステファンと道ずれウェイ

チェンソーの悲劇から一時間後。


ドアを破壊したことに、寮の管理人からたっぷりお説教を受けた三人はどっと肩を落とました。


ちなみにウェイは、その時はちゃっかり逃げ出しており、近くのカフェでお茶を楽しんだあと、時間を見計らって帰ってきました。


鬱々とした空気を撒き散らしながら、三人はぶつくさ言っており、大変危険な状態です。


おもしろいな、とウェイは部屋の片隅でのんびり観察していました。


「…なぁ、教授、実験どうすんだよ?」


はじめに会話らしい会話を始めたのは、ステファンでした。


「………Wakabaがいないのなら、完成するものも完成しません………」


悲しそうに、サンタクロースばりの白いひげを撫でながら俯いた教授。


だが、ここで終わらないのは、マッカサー老教授でした。


下克上が当たり前の競争社会で、何十年も専攻分野のトップであり続けた御仁です。


邪魔者は実力と権力を使って、吸収合併して、勢力を保ち続けたメタボ気味の教授です。


はじめの嫁に逃げられても、二番目の嫁に巨額の慰謝料を叩きつけられて裁判沙汰で苦しんでも勝利を掴んだ好々爺です。


地鳴りのような効果音を携えて、勢い良く立ち上がりました。


「…Wakabaがいなくて完成しないのなら、かくなる上はWakaba拉致作戦を決行したいと思う!」


教授はばっと隣に座っていたミィリーの肩を掴んだ。


「議長!お言葉はっ!」


一瞬、戸惑ったような顔を見せたミィリーですが、急に瞳に光がみなぎりました。


「当たり前だわっ!ここで、一年若葉がいないまま過ごすより、犯罪行為をしたほうがマシだわ」


マッカサー老教授とミィリーはお互いに手を取り合い、意気投合していました。


すこし置いてけぼりを食らったステファンがぼそっと呟きました。


「相手のことを考えて行動しろよ…」


「そうですね、まったく、ミィリーときたら…」


おもむろに、ウェイが口を挟む。


「元はと言えば、アンタのせいでしょ!プレゼントなんて言って、あ、あたしを…」


ミィリーは顔を真っ赤にして、言葉を失くしました。


「と、とにかくっ!作戦会議」


「お前、作戦と云っても若葉のとってる行動がわからないと話がすすまねぇだろ?」


逃げ腰気味のステファンが呟くと、マッカーサー老教授は机の下からノートパソコンを取り出しました。


キーボードを何回か叩いたあと、規則的な電子音が聞こえてきます。


「…Wakbaは現在、アリゾナ上空ですね」


「教授、それって……」


嫌な予感にステファンは脂汗を流す。


「GPSですよ?この犯罪大国で優秀な人材を失くすのもなんだし、無許可で発信機をつけさせてもらいました」


あっさり言ってのける教授にステファンはますますひいてしまい、逆にミィリーは眼を爛々と輝かせます。


「Good Jobよ、教授!」


これを機にふたりはどんどん作戦を決めていきました。


完全に外野になったステファンと、鼻から関わるつもりのないウェイはすることがないので、仕方がなく若葉の荷物を詰めていく。


「あ、若葉の下着発見」


ウェイは白のレースがふんだんに使われていたブラジャーとパンツの組をステファンの眼前に垂らす。


首から頭にかけて一気に赤面しました。


そして、鼻を押さえ、バタバタと走っていきました。


「まだまだですね……」


アメリカ人の癖にこうも純情なのもおもしろいですが。


心理学専攻で、将来はカウンセラーになるつもりのウェイにはなぜ彼らが若葉にこだわるか簡単にわかります。


ステファンは一目ぼれ、ミィリーは死んだ姉に重ね、そして教授は。


助手だとか何か言っていますが、やっぱりステファンのように若葉に恋をしています。


本人はこれっぽちも気づいてませんが。


老い先短い恋というものはこうも激しく、ストーカー的なのでしょうか。


研究テーマには最適だなと思い、ウェイは荷造りを続けました。


「…若葉はやっぱりぺッタンなんですね」


手にしていた下着を箱にいれたウェイは、しっかりとカップ数を覚えました。


ステファンにこの情報をいくらで売ろうか画策しながら。



その後。


世界最高峰の頭脳を使い、『若葉』と名づけられた作戦はその日中に決行されたとか。

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