第35話砦攻略せん

 兎組と合流して情報を共有する。


「砦の中の敵は少なかったな。百体いるかどうかってところだ。門から入ってすぐが広場で、さらにその奥が母屋、東西に複数の建物があり、東側の建物からはオークが淒い数出てきたので兵舎だと思う。

 西側にも同じような建物があったので多分弓兵の兵舎だと思う。それ以外の建物が複数あったが中は確認していない。門のかんぬきは一つだった。

 母屋にはボスが居て寝てた、多分身長五m位だな。母屋の天井に引っかかって起き上がれなくて、不自由そうだった。種族は不明だけど、ぱっと見、人間だな。太ってて、ヒゲが生えてて、日本人ぽかった。名前はシェウムキーファーだった」

 みんなには驚かれたが、結構な情報共有が出来たと思う。


「百体も敵が居て、よく無事に帰れましたね」

 前田が質問してきた。そりゃ疑問に思うよね、しかし嘘を伝えると攻略の妨げになると思うし、本当の事を言うにまだちょっと勇気というか、決め手というかが足りてない。一応答えは用意してある。


「基本全速力で走り回って、薬草やポーションを使いながら戦ってたんだ。クリティカルヒットが何故か多く出てて、楽しくなってノリノリな気分でやってたらいつも以上に上手く戦えたよ」

 かなり苦しい言い訳だな。ハンガクが手をあげて発言する、ばれたかー。


「それはテンションアップですね。感情や集中力が一定を超えると、いつも以上の力が出たり、クリティカルヒットが連発したり、ゲーム内の速度がゆっくりになる等の現象が報告されています。火事場の馬鹿力のようなものでしょうか」

 なるほど、確かにそんな感じだったな。だとすると“限界を超えし者”系の称号を持っている人が他にもいるかもしれないね。つけても目立たないかも。



 まだ、砦の中の状況が分かっただけで具体的な攻略プランは出ていない。色々な意見を、襲ってくるオークたちを返り討ちにしながら話し合う。


 しかし、なんで態々兵舎なんか作るんだろう。普通に穴から出せばいいのに。もしかして、兵舎壊したら敵が出てこなくなるんじゃないか?


「えーす。普通ゲーム内の建物などは破壊出来ませんよ。ゲームの常識です」

 ハンガクが手をあげて発言する。そうなのか? あれ、エルドワ家壊してたよな。エルドワなら壊せるのか? バケモンだなアイツは。いやいやNPCもプレイヤーも大差がない気がする。


「いちおう試してみよう。誰かきこりっている? 壁が切り倒せるか確認したいんだけど」

 周りに話しかけてみると、一人立候補してきた。獣人象、女戦士の花子だ。


「いちおうきこりです。やってえ、みまあす」

 花子がゆったりとした口調で話す。花子と一緒に壁まで近づいて、夜なので見やすいように松明に火をつけて砦の壁の下に置く。

 ポシェットから両手斧を取り出すと、大きく振りかぶって、砦の壁に叩きつける。ゴーンと大きな音が響き、若干だが傷が入った。普通の木よりも数十倍硬いらしい。また伐採スキルは発動しないとのこと。何度か叩いていると、


「えーす。敵が走ってきます」

 確かに私と花子に向かって一直線に向かってくるのが見える。大きな狼に乗ったオークだ。しかも、東側と西側から迫ってくる。これは不味い。


「アースワーク」「アースワーク」

 となえてみたが、二個作った時点でもう敵は目の前だ。飛び掛かってくる狼を避けるが、後ろから別の狼に体当たりされて吹っ飛ばされる。吹っ飛ばされた先にはオーク達がいて滅多刺しにされる。ハンマーで殴られ、壁まで吹っ飛ばされて松明の上に寝転び、体が燃える。


「最寄りの村に戻りますか? はい いいえ ※注意:LV十までは死んでもデメリットはありません」

 まあ仕方ない。砦を斧で破壊しようとすると敵が出てくるのが分かっただけでも儲けものだろう。砦の壁をみると若干壁が焦げていた。



 私と花子は死に戻って先に休憩する。日本時間で二十二時半になり、みんながリンスドルフまで戻ってきたので情報を交換する。


「砦は斧で壁を壊すことは可能だと思うが先ほどのような事になるので無理だろう。ただ松明で壁が少し焦げていたので、火矢を打ち込んだら燃やせるんじゃないか?」

 昔の戦争では火矢とかあっただろうし、この世界でも出来るんじゃないのかな?


「火矢は今のところ報告がないので、これからレシピの発見からする事になると思います」

 え? そんなに大変なの? てっきり簡単に出来るものだと思ってました。


「この砦を攻略するのは良いですが、経験値が稼ぎにくくなりますね。一度に大量に倒せるので経験値的にはお得だったから少し勿体無いですね」

 フランキスカを撫でながら言うとちょっと怖いですパートさん。確かに経験値が多く貰えるこの状況はありがたい。それに私たちが攻略してしまったら反感を買う恐れもある。ハンガクが手をあげて発言する。


「砦攻略はイベント開始の直前、木曜日または金曜日にすることで、仮に反感を買ったとしても影響が少ないと思います。また掲示板にも砦攻略する旨の宣言をしておいて抜け駆けにならないようにしてはどうでしょか」

 少しは文句が言われる確率が下がりそうだけど、どこにでも文句を言う輩はいるからなあ。でも全員が納得するなんて事はないだろうし、多人数でやっているゲームなんだから努力した結果、一番最初に倒したとしても文句を言われる筋合いはないはずだ。


 基本方針は火矢で砦を燃やす方向で、詳細は兎組の掲示板で詰めることにして本日は解散となった。一般の掲示板には、砦攻略をする日時、先に攻略したかったらどうぞ、敵がでなくなったらゴメンネ、よかったら一緒にどうぞ、横殴り歓迎、という書き込みをハンガクがすることになった。



 月曜日、昼間はアイゼンハルトで鉄鉱石四千三百箱ほど購入し、クローネシュタットで放置露店する。


 私も昼間インターネットで、中世の戦争に関する情報収集をして幾つか良い情報もあったのだが、投石機は仕組みが複雑そうでゲーム内で作成出来る気がしなかった。破城槌は音が大きいだろうし、多分門を打ち始めた時点で敵が大勢出てくるだろう。



 夜は、今日は狩りをせず、各自が生産活動などをしながら攻略方法を考えている。

 私も調合をしに西門ギルドに来ている。前回干しっぱなしで忘れてた。残りの薬草:生と毒消し草:生、合わせ草:生を干してから、前回干して乾燥している、薬草、毒消し、合わせ草を回収して、レンタル部屋で生産を行う。全部で百六十八個の薬草と毒消しが出来たが、毒消しは不要なので納品した。


「いちおう、松脂まつやにと布を使って、火矢は作成出来ましたが、あんまり強く打つと火が消える可能性があるので、緩く打つ必要があります。飛距離は百m位ですね」

 パーティチャットでハンガクが現状を報告する。百mなら近づけるから問題ないだろう。敵が出てきても、アースワークなどで防げそうな気がするが、もう少し敵を防ぐ練習が必要だろうな。

 どうせなら二十m位まで近づいて、松明を投げ込んだり、燃やした薪を投げ込んでも良いのではないか? 意見をPTチャットで伝えておく。



 火曜日、昼間、スラム街に遊びに行く、子供たちが寄ってきた。何人かが私の首に抱きついてぶら下がろうとする。胡座をかくと、その上に獣人洗い熊の女の子が座ってきた。


「えーすお爺ちゃん、日本のお話してー」「えーす、えーす、空まで続く塔の話してよー」

 女の子の頭を撫でながら、今日は星の世界まで続く塔の話、その塔の先端からお月様まで飛んでいける船の話、お月様では普段の数倍も高く飛んだり、フワフワとした感じになる事を話した。


「わたしも行きたーい」「お団子食べターイ」「じゅるじゅるっとしたもの食べたーい」

 お地球見団子や宇宙食等の食べ物の方が興味があったようだ。しかし、ここに来ると心が癒されるわー。また来ると約束して別れた。一人連れて帰りたいな。足にしがみついてる子供を剥がして街の中心街に向かう。



 日本時間二十時、ゲーム時間二十時、リンスドルフから砦の北側に向かう。今日は砦に近い場所で防衛の練習だ。北側から南下して、砦まで百mというところだ。

 今日は総勢七百人程参加している。先日武器の製造を手伝ってくれた方やその友達、ゲームを始めたばかりの新人など、まだ人数が増えそうだね。ちなみに新人でも十分戦力になるし、新人にとっては効率の良い経験値稼ぎになる。


 槍四百人を謙信、槍精鋭五十人を前田、弓隊百八十人と総指揮をハンガク、その他をパートが指揮している。私はその他チームで前方に走って壁を使くるメンバーの一人だ。


 砦まで百mまで近づいた。弓隊が継続的に見張り櫓の敵を攻撃し続けている。敵の数が減ってきているので、槍隊の十m先で敵が近づくのを待っている。待っている間暇があるので、先日アイゼンハルトで購入していた鉄屑の数箱を地面にばら蒔く。


 敵が走ってくるのが見えた。


「「「アースワーク」」」「「「アースワーク」」」

 魔法使いが一斉に土壁を作りまくる。私も自分の役割分の土壁を作成して、味方の槍衾の中に逃げ込む。通常のフィールドオークやゴブリン、コボルトなどが沸くが、直ぐに槍が上下に動いて叩き潰されていた。

 数匹のオークが土壁を登ろうとした際、痛がって登るのに苦労しているように見える。壁を乗り越えたオークの中にも痛そうにして、足が一旦止まるものがいる。しかし、大半は気にせず突っ込んでくるようだ。効果は低いようだ残念。


 防衛は上手く機能しており、やはり槍衾の少し先に壁を作るのは効果的だと分かった。一旦敵がいなくなったので、砦の中に普通の矢を打つ練習をしてみた。三回打ち込んだところ、相手からも矢が飛んで返ってきた。


「えええー」「いたたた」「あぶな」

 数人油断していたため、死に戻ったようだ。


「全員後退ー、後退ー」

 ハンガクが全員を五十m程後退させた。敵の矢は先ほどの場所を中心にしばらく降り注いでいる。矢を同じ場所から打ち込むと、その辺に反撃する仕組みがあるようだな。



 次のオーク集団を迎え撃った後、相談を始める。


「二回打ったら移動したら良いんじゃないか?」

「複数箇所から別れて打ち込めば良いんじゃないか?」

 確かにそれらも良い案だと思う。でも相手は門から入った目の前にある南側の広場から射ってるはずだ……


「弓が山なりに飛んでくるとして相手の壁が五mだ。壁にへばりついたら、相手の矢が当たらないのでは?」

 意見を伝えると、なるほど一理あるという事で、決死隊三十人が砦の壁から十m位の場所から矢を山なりに打ち込む。数回打っていると、敵から矢の反撃があるが、矢が刺さるのは壁から二十m位の場所だ。

 ついでに火の付いて無い薪を投げ込でみる。それらに対する反撃もあるがそれも壁から二十m位のところに飛んできていた。大体感触が掴めたので、槍百二十人、弓百二十人、その他十二人が、北壁に貼り付き、西側と東側に向かって待ち構える。


 敵の一段が近づいてくる。事前にアースワークを唱えてある。南側は壁があるので、自分たちの正面と北側だけで済む。矢を多めに設定したので、こちらに近づく前に倒せている。


 今回の練習では十分な収穫があったと思う。明日は各自で行動、木曜日の夜が本番だ。今日はクローネシュタットまで戻ると、


「おじいちゃん! 来たよー」

 振り返ると、筋骨隆々の獣人熊の女? 戦士がいた。というか他にも気になる事がある。黒い体に一部緑のアクセントが何箇所か入っており、カビか? でも全身緑で黒い斑点よりはマシだな。

 自分の身長より若干短めの四角い盾と大剣に、鉄のブーツ、鉄兜、鎖帷子のような物を装備している。可愛い孫娘が来たのだが全然可愛くない。まあそれは良いや。


 もうすぐイベントなので、ブラウメーアからクローネシュタットに帰って来たそうです。明日からイベント終了までは合流したいとのこと。前田、謙信、ハンガク、パートにOKを貰えたので、明日からは一緒に遊ぶことになった。


 やったーーーー

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