第36話スレイプニル?

 水曜日、日本時間十時、ゲーム時間零時、アイゼンハルトまでの道のりを脱兎で捜索中です。以前気になっていた足の多い馬をインターネットで検索したら、『スレイプニル』という神獣の一種かも。安全地帯で休憩していると、馬らしきものが見えたので接近してみる。


 が、うーん、NPCだな、黄色いアイコンが付いている。これは倒すと犯罪者扱いされるかも知れないので手が出せないね。仕方がないので近くにいた熊を倒した。モルルンや盾を使って避ける練習をするにはちょっと強いけど、練習の繰り返しが上達への一歩だからね。おや?



「おい、オマエ。俺の縄張りでなにしてやがる」

 まだ名前が判明していないので、????と表示さており詳細は不明だが、スレイプニルと思われる馬が話しかけてきた。


「すみませんでした。熊を倒しながら戦闘の練習をしていました」

 素直に謝り、かつ、何をしていたかを説明する事にした。


「謝って済む問題じゃない、勝手に縄張りを荒らしたんだ、死をもって償え」

「デュエルを申し込まれました。受けますか はい いいえ」

 馬がイチャモンをつけて、決闘か何かを申し込まれた。しかし、NPCを殺すと犯罪者になる可能性がある。受けるわけにはいかないね。


「本当に申し訳ございませんでした。そこの熊の死体はどうぞお納め下さい」

 とにかく、回避する方向で話を進めよう。“いいえ”を選択する。


「何を言ってるいんだ、頭がおかしいんじゃないのか? 私の縄張りの物は全て私の物だ、当然その熊も私の物だ。私の物を私にお収めくださいって馬鹿にしているのか? ああ゛ん?」

「デュエルを申し込まれました。受けますか はい いいえ」 

 コイツは……、しかし私は寛大な人間なので怒りません。


「配慮に欠けており、申し訳ございませんでした。何かお詫びをする機会を頂けないでしょうか」

 なんとか回避策を探らないとな、“いいえ”を選択する。


「そうか、では今持っている物を全てそこに置いて横になれ、苦しまないように殺してやる」

「デュエルを申し込まれました。受けますか はい いいえ」 

 ……流石に腹が立ってきた。しかし、NPC殺しがどんな罪になるか分からない、ここは落ち着いて行動しよう。


「すみません。これをお収めください」

 兎の涙を一個だけ出して、“いいえ”を選択する。兎の涙で済むなら楽でいい。


「お前は本当に馬鹿だな。言葉が分からないのでちゅかぁ? おバカちゃんでちゅか? うん? 全て置いていけと言ったんだぞ、どうしたらそれが全てになるんだ。あれかボケているのか? 

 ボケているなら仕方がない。先日全て持ち物を渡すって約束したよねお爺ちゃん? あれ忘れちゃったの? 全ての荷物を置いてそこに横になりなさい。マッサージしてあげるから。さ、さ、さ」

「デュエルを申し込まれました。受けますか はい いいえ」 


 どうやら、逃がす気は無いらしい。というか流石にちょっとこれは、あれだよ。うんあれ。思い出せないけど、うーん何だっけかな? もしかしてボケちゃったのか? えええーー、ゲームのしすぎかもしれない、ウムム……。


「おい、早くしろよ」

 いけない、返事をするのを忘れてしまった。しかし、死んだ時のデメリットとか、ルールを確認しておかないとな。


「はあ? お前が死んだら全部貰ってくぞ。ルール? 何でも有り有りに決まっているだろ」

 念のため、商会に荷物やお金を預けてきたから大した持ち物はないけど、装備は痛いな。まあ、危なくなったら脱兎で逃げればいいか。装備をモルルンと盾から、十文字槍に変える。


「おい、お前なんで武器を変えたんだ汚いぞ。そんなリーチが長い物、ずるいじゃないか」

 何でも有り有りじゃなかったのか? まあ、気にしても仕方ないから“はい”を選択しようと


「待て待て、ちょっと移動するから待て」

 馬が少し小走りで離れていく。私も急いで後を付けていく、ここで戦うと不味いのだろうか? 戦う場所を移動する。馬が移動が終わって振り返る。私も急いで馬の方に向かう。


「おいおいおいおい、なんでお前まで移動するんだ。それじゃあ移動した意味がないだろ」

 ん? どういう事だ。距離を取って突撃するまでの加速を得ようとしたのかな? 随分図々しいなコイツは。少し馬が離れていく。


「まあ、これくらい距離が有ればいいや。お前みたいな貧弱な戦士など直ぐにあの世行きだな」

 なんで戦士だと思ったんだろう? ちょっと聞いてみるかな。


「はあ? どう考えても魔法使いの武器じゃないだろ。魔法が弱点かって? そんな弱点を教える訳無いだろう」

とりあえず、準備が完了したようなので、“はい”を選択する。



 馬が駆け出し始めた。私も直ぐに魔法を唱える。


「クライネファイヤー」「クライネファイヤー」「クライネファイヤー」「クライネファイヤー」「クライネファイヤー」「クライネファイヤー」「クライネファイヤー」「クライネファイヤー」「クライネファイヤー」「クライネファイヤー」

 顔から火の玉に突っ込んでいき、燃えて走る速度が直ぐにおちて、その場でぐるぐると回って悶えている。回っている体にも、どんどん火の玉があたっていき、体全身を火が覆う。


「クライネウインド」「クライネウインド」「クライネウインド」「クライネウインド」」「クライネファイヤー」

 魔法を連続で唱える。出血をさせて継続ダメージを与える。悶える時間が継続するように火の玉もぶつける。ポシェットから花装備のフランキスカを投げまくる。


「イテテ。いたい、いたい、……」

 馬が叫んでいたが、麻痺したようだ。近づいて槍でメッタ刺しにする。「クライネファイヤー」で定期的に顔に火の玉をぶつけて燃やしておく。しばらく戦ったところで、


「スレイプ ニルを倒しました。経験値二百三十が入りました」

 アルミラージより、三、四レベルくらい、格下のようだな。それと名前がちょっと違うから偽物かも知れない。あんまりいい物は期待できなそうだけど、剥ぎ取りナイフをポシェットからだす。



「お前なかなかやるな、良かったら仲魔になってやってもいいぜ」

「スレイプ ニルが仲魔になりたがっている。受け入れますか  はい いいえ」

 “いいえ”を選択する。こんなやつ要らないし、何が出るのかそちらの方が気になる。


「いやいやいやいやいやいや、ちょっと待って、普通仲魔にするでしょ!?」

「スレイプ ニルが仲魔になりたがっている。受け入れますか  はい いいえ」

 “いいえ”を選択する。普通など知らない、こんなやつ要らない。


「待って待って、あれ、あの、馬より早く走れます! えっどれくらい? 少し、いや二倍、二倍速いです!」

 馬の速度が何キロかしらないけど、車並みとして四十km位か? 倍でも八十kmだな。遅いから要らない。


「待って待って、私に乗ると凄く目立つと思うんです。きっと人気者になれますよ!」

 目立ちたくないので却下だな。


「スレイプ ニル、私は戦いたくなかったのに無理やり挑んだのはお前だ。そして戦ったら全てを奪うと言ったのもお前だ。謝罪をしたのに受け入れなかったのもお前だ。という事であの世で反省しろ」

 冥土の土産に説教をして、相手の言い分は聞かず剥ぎ取りナイフを刺した。動物の肉五十個と動物の皮五十個、『!魔の盾』が手に入った。


!魔の盾……驚くような魔力が込められた盾かと思ったら、紙で出来た偽物です



 うーん、実用的じゃないね。あとで商会の棚に放り込んでおこう。しかし、時間の無駄だった。



 日本時間二十時、ゲーム時間二十時、PTで簡易ダンジョンに向かう。前衛は、謙信、前田、私、チョコ、後衛はハンガク、パートだ。

 ちなみに兎組の面々は生産と、マリアマリア・テレジアが新人を中心とした人を集めて、戦闘訓練兼レベル上げを行っているそうだ。新人だけで五百人程いるらしい。兎組のメンバーというわけではないが、イベントが終わったら敵を出すのを手伝ってあげようかな。



 さあ、今日もダンジョンに入ると、オーク達が囲炉裏の前でご飯を食べていて、オークのみんながギョッ!って顔で驚いている。そんな事に構うことなくチョコが突進する。


「パワーワーク」

 強烈な一撃をオークの頭上に叩き込もうとしたところ、オークが右手に持っている箸で剣を挟む。そしてそのまま頭を叩き割られた、当然だよね……。


 チョコのプレイスタイルは、大剣と大盾を利用したパワー重視のインファイトだ。敵が防御してもそれを上回る力で叩きつけ、叩きつけ、叩きつけ、防御ができなくなった敵を強力な一撃で地面に沈める。攻撃されても盾で受けて、そのまま盾で押し返したり、強引に壁まで押し返して潰している。

 多少のダメージなどは気にせずに戦っている、薬草をムシャムシャと食べながら戦う姿は勇ましい。ただ、戦う前にいろいろと喋るんだよね。


「叩き潰す」「……っつ、ハッ」「ううーッハ」「せぇーえっい」「お寝んのねの時間だぜ」

 口に出さなくても戦えると思うんだけど、声に出して戦う事で戦いやすくなるんだろうか?


 敵が弱いので本領発揮出来ていないとの事だが凄く強い。LV八で剣と盾のスキルを二つずつ覚えている。ブラウメーアのダンジョンは、敵のLVが高いがゾンビとスケルトンが多いので油断しなければ戦いやすく、数も一度には沢山出ないのでレベル上げもしやすいらしい。


 倒したオークから、くそ不味い青汁が出たのでチョコにあげたらゴクゴク飲んでた。


「プハー。まずーい。もう一杯」

 ノリがいいのか、根性があるのか、味覚がおかしいのか不安になる。


 それでも戦っていると、孫娘とやっと一緒にゲームが出来た嬉しさからテンションがアップしてきた。BGMも例のアニメのものに変更。私も武器をモルルントゲトゲ状の鈍器に変えてインファイトで戦い、ボン、ボン、オークの頭が爆散する。

 モルルンの攻撃でオークの頭が爆散するのをみて、必殺技の名前を付けるなら星爆発流にしようと思った。


「お爺ちゃん結構やるね。クリティカル率すごおーい」

 うふふふうふふふふふうふふ。駄目だテンション上がりっぱなしで爆散率が下がりません。


「称号:“限界を超えし者:楽”を入手しました」

 おお、さらに称号まで。テンションMAXですな。



 “限界を超えし者:楽”

・まったくおめでたいね。


 は?


 ゲーム内で三時間程遊んで、今日はクローネシュタットまで戻って解散となった。帰り際にチョコに何かゲーム内で欲しい物が無いか聞いてみた。マールなら有るしね。


「うーん今は良いかな~ポシェット枠を圧迫しちゃうし。あっでも、ゾンビやスケルトンから出た武器があったらちょーだい」

 なんだ? ゾンビやスケルトンから出る武器に良い物があるのか? チョコミントのコレクションを見せてもらった。


赤錆びた鉄の短剣/長剣/斧/ククリ [効果は全て同じ]

・呪われており、この武器を持つものは動きが遅くなる

・この武器で攻撃されると稀に毒状態になる


黒錆びた鉄の短剣/剣/大鉈/レイピア [効果は全て同じ]

・呪われており、この武器を持つものは火耐性が低くなる

・この武器で攻撃されると稀に麻痺状態になる


緑青錆びた銅のナイフ/剣/手斧/短槍 [効果は全て同じ]

・呪われており、この武器を持つものは防御力が下がる

・この武器で攻撃されると稀に盲目状態になる


黒ずんだ銀の短剣/短剣/ナイフ/レイピア [効果は全て同じ]

・呪われており、この武器を持つものは補助魔法が解除される

・この武器で攻撃されると稀に補助魔法が解除される


「凄いでしょ!私のコレクション。へへへへ」

 凄いドン引きです。あなたにドン引きファミリー孫♪です。これは間違った方向性に育っているのかも知れないなどうしよう……。幸い武器は捨てたから持っていない。捨てといて良かった。

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