第25話謁見

 翌朝、ウーヴェ商会長と一緒にお城に向かう。商会長が馬車を出してくれたので乗っているだけで着くはずだ。

 しかし目立ちたくないって言ったのになあ。


「あくまでも荷物の受け渡しの評価だ。そこは諦めて褒美を受け取ってくれ」

 上司になったので少し言葉遣いが変わったな。気にならないけど。


 マナーは一切わからないので、商会長が説明してくれた。


「扉が開いたらまずその場で一礼、三十度くらいの角度だ。私の一歩後ろを歩き、私が止まったら止まり、私が片膝をつくので、同じように片膝ついて顔を下にしておくこと。

 顔上げろと言われたり、近づけと言われない限り、それ以上の動作はしない。

 あっ、だが近づけと言われても階段の下までだ。階段の数歩手前で止まれ。失礼にあたるので褒美は絶対に断らないこと。

 褒美を頂く際には、頭を下げつつ一歩前進して東に向き直し一礼だ。謁見の間だと階段側ハイコ様側が北だから右側が東だ。これはゾンネ様に対する敬意だ。そして……」

 覚えられる自信がありません。



 馬車から城を眺める。機能美。装飾された城ではなく要塞だな。戦争になっても何日でも籠城できると感じさせる作りだ。

 城の周りには空堀があり、今は跳ね橋が降りている。幾つもの塔や、張り出し陣のような箇所があり、簡単には城内に入れないように思える。城へと続く道も馬車一台分が通れるくらいの幅しかなく、道も曲りくねっている。

でも、ファンタジーなら空からも侵入出来て守りきれない気がするな。残念。



「かなり立派なお城なのに王城じゃないんですね」

 商会長に話しかけたら、なんと元王城との事。

 建国時の王都がこの場所で、その後北にある現在地に王都を移し、ここの領主ハイコ様は王族の方だそうです。ああ、余計に緊張してきた。



 謁見の間に通されて、NPC相手なのに、緊張しながら真っ赤な絨毯の上を歩く。いやお城の謁見の間なんて来たが事ないし、王族なんて見たことが無いから仕方が無い。

 

 領主のハイコ様は、全身がふくよかで優しそうな人間の伯父さんだった。均等に少し膨れている、人に二回り肉を巻いた感じかな。


「えーすよ。この度の働き見事であった“宮廷魔術師”の称号及び、一千万マールと秘宝バムハーゼィッグを与える。

 別室に幾つか褒美を用意してある。外国の方に褒美を与える機会が少ないため好みが良くわからん。好きなものを選ぶが良い」


 宮廷魔術師って、私LV三で覚える魔法しか持っていませんよ。

 欲しいアイテムを選ばせる設定ですね。大丈夫わかってます。


 別室に案内されて、やっと人心地ついた。


「お疲れ様」

 商会長がやさしく私の腕を軽くポンポンと叩きながら言った。気遣いありがとう、でも気を付けないとセクハラだぞ。


 もらった秘宝を眺める。

バムハーゼィッグ

・首飾り。装備者に慈悲を与える。MPを完全回復する。

 ゲーム時間一日に一回。毎日零時に回数がリセットされる。


 凄い性能な気もするが、HP回復ポーションがあるのだから、MP回復ポーションもありそうな気もするし、秘宝だし、それほどでも無いのだろう。



 褒美候補がいくつか並んでいる。宝石箱[宝石入り]、鑑賞用と思われる宝石付の剣、黄金のフルプレートアーマー、白いローブ、……


 鑑賞用と思われる宝石付の剣を眺める。

カリバーンのレプリカ

・アンデット系モンスターに、二割增しのダメージを与える。


・使用者のHPを完全回復する。

 ゲーム時間一日に十回。毎日零時に回数がリセットされる。



 黄金のフルプレートアーマーを眺める。

オーディンのフルプレートアーマーのレプリカ

・HPとMPが一割増す。


・自身に受けた攻撃魔法を自動で無効化する。

 ゲーム時間一日に十回。毎日零時に回数がリセットされる。



 白いローブを眺める。

ヘルゲのローブ

・HPとMPが一割増す。


・装備者が唱える聖属性魔法の対象が単体から範囲に変更出来る。

 ゲーム時間一日に三回。毎日零時に回数がリセットされる。



 どれもこれも結構な性能だな。今あるアイテムの中では、ローブが魔法使いには一番良さそうだし、これにしよう。


 もらった称号の方はどんな効果なんだろう。

宮廷魔術師


・城の中に入れる。


・人に尊敬される。


・名誉職なので具体的な仕事はない。当然報酬もない。


・ヒーラー、バッファー、ウィザードの職を兼ねることが可能。

 但し、それぞれに転職アイテムが必要。

 称号を外す際には職業を一つ選び、選ばなかった残りの

 職業の魔法は忘れる。

 再度称号を付け、転職で職業を追加すれば思い出す。

 但し、それぞれに転職アイテムが必要。


 最初の三つはどうでも良いがこれは凄いな。転職後の魔法が全て覚えることが出来るのか、でもまだ続きがあるな。


・魔法を知らないと恥ずかしいため、

 称号をセットした時点で魔法取得分の経験値があった場合、

 魔法取得を優先し強制的に魔法を取得する。

 また取得できる魔法候補がある限り、

 経験値を別の用途に使えず魔法を習得する。

 魔法習得は場所を問わない。

 

 うーん、なんだろう呪いだろうか。この前“兎の餌ニ”を覚えるときに新たな魔法候補が出ていたから、経験値が全部これに持って行かれそうな気がする。

 LVが上がったら三職業分の魔法を覚えることになるだろうから、成長が著しく止まりそうだな。

 それにこんな称号をセットしたらかなり目立つだろうし、ハンガクなんて問い質してきそうだ。色々とバレそうな気がする。今はセットしないでおこう。

 秘宝とローブは雑魚的相手に装備して壊れると嫌だし、目立ちそうだから保管しておくことにした。



 朝が早かったので一旦ログアウトする。朝食を食べて、CONNECTを見ると孫娘との板に書き込みがある。


「おじいちゃん楽しそうなことしてるね。次は私も参加したいですo(^o^)o」

 おお、是非お願いします。楽しかったし、しばらく続けるかな。


「(>Д<)ゝ了解! 楽しみに待ってるね」

 これは遂に、孫娘とゲームを一緒に出来る時が来たのかもしれん。ゲームして良かった。

 

 日本時間十時、ゲームを再開……出来ません。むむむ、でも私は怒りません。まずはホームページを見て状況を確認しましょう。

 なになに、特定条件下でゲーム続行が困難な不具合が発生したためか、ゲームが出来ない人がいるなら仕方ないね。

 で、お詫びは何かな~♪……お詫びなしと……。有り得ない! メンテナンスとお詫びはセットじゃないのか? 断固としてお詫びを要求する!


 他にも修正事項や連絡事項が書いてあるな。


・十七日後の土曜日とその翌日の日曜日にゲーム内イベント有。


・クローネシュタットの近くに簡易ダンジョンを用意。


・PT時の経験値をUP PT人数に応じて比率アップ。


・MP回復速度UP 時間あたりの回復量を見直します。

 修正前と比較して約二割増。


 なんか貰ったばかりの秘宝のメリットが薄れた感じがします。運営の悪意を感じる。バランスとかテストして確かめたんじゃないのか?

 内容を読むと、ユーザからの要望によりと書いてあったが、確かにユーザの声は大事だが、声を出していないユーザが居る事も忘れてはいけない。

 軸がなければだめだ。言われるがまま手を加えるとバランスがおかしくなり、結果として駄目なものになりかねい。そして、このゲームの軸はお詫びだ。お詫びを……


 でもMP回復速度アップは有難いな。それに他の魔法使いも楽になったんじゃないか? 魔法候補も出ていたし、良さげな魔法があったら、少し位は取ってもいいかもしれない。

 それに経験値アップは、早く皆に同じレベルまで追いついて欲しいからこれは有りだな。早く夜にならないかな。

 ゲーム内イベントはクローネシュタット近郊で怪物が大量に出現する狩りクエで、土日の十時~十三時、十四時~十七時、十九時~二十二時になっている。狩った敵の数に応じて、何らかの報酬がもらえるらしい、前田達と参加したいな。


 また翌週木曜日の午前中に再度メンテナンスがあり、そのメンテナンス後からイベント終了後の翌火曜日の二十四時まで、クローネシュタット-ブラウメーア間、クローネシュタット-エールラーケ間を結ぶ駅馬車が運行されるらしい。

 ログアウト中でも自動で移動されるので、遠距離に行っている人でも戻って来れるよう配慮したようだ。

 

 日本時間十八時半、ゲーム時間十三時、前田と謙信がログインしていたので、待ち合わせ場所に行く。

 待っている間問い合わせが凄かったらしい、悪いことしたな。前田と謙信も初心支援兼お祭り狩りに賛成だったのでメンバーを集め始める。というか既に二十人位いる。


 途中でハンガクを加えて二百人位居そうだ。少し足を伸ばして、空いていたゴブリン集落の一つの近くで狩りをする。

 やはり人数が多すぎたようだ。楽しいことは楽しいがもう少し高いレベルの敵でないとこの人数では全然物足りない。それに敵と戦えない人が出てきていて正直コントロールしきれない。ちょっと開催方法を考える必要があるな。

 

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