第3話初めてのVRMMOの世界、そして戦闘に

 画面が変わるとそこは大きな街の入口だった。喧騒が聞こえる、多くの人が闊歩している。

 正面には中央通りと思われる幅の広い道。馬車が四台くらい並行して走れそうなほどだ。

 その脇には、二、三階建ての大きめの建物が随分先まで続いている。一キロくらいはありそうだな。道が終わって建物があり、その奥にも街並みが続き、更にその奥には丘が、丘の上には城っぽい建物が見える。結構離れているのに大きそうな事は分かった。

 反対側を向くと街の境目と思われる場所には、高さが五mくらいの壁が視界の続く限り続いていた。


 街の出入り口と思われる場所は門があり、その先には草原が見える。

 プレイヤーと思われる人が大きめの兎や犬のようなものと戦っている。プレイヤーと思われる人の上にはアイコンがあって緑色をしている。

 すぐ近くにいるおじさんは黄色のアイコンが付いている。あ、おじさんと目があった。


「ようこそ。ここははじまりの街。クローネシュタットです」

 あー黄色はNPCなんだな。なんで町の名前を伝えているのかと聞いてみたら、それが仕事だそうです。街のガイド兼衛兵で、持ち回りでガイド役になるそうです。

 人が多いことに驚いて尋ねてみたのですが、人口は二十万人以上は居るんじゃないかと。

 多いよ、多すぎ。RPGの初期村なんて人口数十人だと思ってました。


 また今日は私のような冒険者というか旅人のような者がいつも以上に、数千という単位で来ているそうで、どこもかしこも人だらけだから宿が取れないだろうとの事でした。

 野営するなら街の門の外にしても構わないが、ただし門の外にある農耕地には入らないように注意を受けた。


 親切なおじさんにお礼を言って、とりあえず外の兎でも狩ってみようかなと歩き出そうとしたら、体が動かない。

 正確にいうと動くんだけど、動き始めるまでにかかる時間が遅い。二テンポくらいずれている感じがする。

 VRゲームなんて初めてだけど、操作方法も知らないのに歩けているんだからこんなものなのかな。周りのプレイヤーは、結構キビギビ動いているように見えるので、VRゲーム慣れをしているプレイヤーなのかもしれない。



 数百mくらい歩いたところで、目の前の地面に穴があいて大きな兎が出てきた。私の前に出てきたのだから私が狩ってしまっても良いのだろう。ふふふ。

 初めての戦闘だ。装備は手に持ってる何かの棒だ。魔法使いだから杖なのかな? とりあえず杖を剣道の竹刀のように持って構える。正直持ち辛い、撲殺用の武器じゃないのかもしれない。

 兎がこちらを見てる。目があったと思ったら、ものすごい勢いで突進してきて私の顔にあたった、地味に痛い。

 避けようと思ったんだけど体がうまく動かない。体勢を崩してしまう。


 武器を構え直そうと思っていると横に廻って視界の外に。向き直そうとした瞬間には今度は足に兎が体当たりをしてくる。体勢をさらに崩したところで、首筋に噛み付いてきた。

 兎を叩いて首から引き離すものの、私のHPと思われるゲージは減少しており、色も緑色から赤色に変わっている。兎の癖につえーな。

 とりあえず杖を振り回してみたところ警戒して離れている。子供の喧嘩で腕をぐるぐる回して殴るようなものだからダメージは無いと思うが、所詮畜生だからそんな事もわからんのだろう。


 左手だけで杖を振りながら、右手で腰のポーチを開けてみてる。

何故か中に何が入っているのかが分かる。薬草と思われる束があり、取り出すと一つだけ薬草が手に収まっている。


薬草……すり潰して患部に塗るか、食べても少し体力が回復する。


 薬草を見たら自然と解説が出た。この程度の説明なら親切だな。しかも戦闘中だし直ぐに用途がわかったのはありがたい。

 すりつぶしている余裕がないので食べてみた。味は生野菜かな。美味しくはないけど不味くもない。HPが急激に回復して緑色になった。薬草最強! う~んやっぱりゲームだな。

 こんな事がリアルじゃありえない。リアルさよりゲーム性が高いほうが楽しいと思うから、これは有りだ。


 とりあえず杖を振るのをやめて、再度両手で持ち直す。兎がジリジリと近づいてくる。

 兎が突進してくるだろうと思われるタイミングで、やや早めに杖をバットのように振り回したところ、ドンピシャで飛び込んできた兎の顔をクリーンヒット。兎が数m吹っ飛ばされてヒクヒクしている。

 経験値がはいっているようにも思えないし、まだ死んでないのかもしれない。とりあえず近づいて、振りかぶって上から兎を叩きまくる。

 何度か叩いたところで、ウインドウが表示された。


「ジャイアントラビットを倒しました。経験値三が入りました」

 こいつの名前はジャイアントラビットなんだな、まあ大きい兎だからな。もしかしたらカニンシェンって名前かもと思ったんだが、ラビットの方が分かりやすいし良いと思う。

 しかし経験値三がどれくらいなものなのかが分からないな。というか、倒したらお金が貰えたり、アイテムが貰えたりしないだろうか。

 周りを見ていると倒した相手にナイフのようなものを刺している。

兎が消えて何か別のものになってそれを拾っているようだ。

 ポーチを開けてみるとナイフのようなものがあったので、取り出してみた。杖は邪魔なので地面において、ナイフで兎を刺してみる。刺さった……。

 うん刺さっただけだ。とりあえず解体するつもりでお腹を開いてみたらゴミっぽいものしか出てこない。ハズレだったのだろうか。

 でも兎なら食べたり皮を剥いだりして利用できるんじゃないだろうか。血は大分抜けたようなので、兎をポーチの中に入れてみた。

ポーチの方が全然小さいのに不思議仕様だな。


 まだまだ一戦しただけなので、もっと戦ってレベルアップしないとな。さらに街の外に向かって歩いていると、地面に穴が空き兎が出てきた。

 反対側を向いているのでこちらに気がついていない可能性がある。これはチャンスかも知れない。

 急いで近づき、杖を大きく振りかぶったところで、こちら側に気がついて突進してきた。避けようもないので思いっきり杖を振り抜く。

 兎は体の横をすり抜けていって、互いにノーダメージで振り返り向き合う。やっぱ動きが遅くて思考に操作が追いつかない。

 どうやって倒そうか考えていたら背中に痛みがはしる。体勢が崩れたので、その流れで振り返ってみると別の兎がいた。挟まれた。

 ニ羽の兔にフルボッコにされる。痛い痛い、力が抜けて私は地面に倒れ込んだ。


「最寄りの村に戻りますか? はい いいえ ※注意:LV十までは死んでもデメリットはありません」

 村に戻るを選択しても問題は無いようなので、“はい”を選択して、最寄りの村[街だけど]に戻ることにした。

 景色が変わって、最初にログインした街の入口に戻ったようだった。

 HPとMPのゲージが半分になっている。MPは使ってないのに半分、HPは0だったのに半分、死に戻りは半分になるのだろうか?

 周りをみると先ほど話しかけたおじさんらしきNPCがいた。


「こんにちは、ちょっとお伺いしたいのですが?」

 おじさんに話しかけてみた。


「ああ。先ほどの方ですね。どうされましたか?」

 このNPCは私の事を覚えていたのか、覚えているのは私のキャラの方のフラグか何かで保管しているんだろうか。

 流石にNPC每に会った人全ての情報を保管するなどありえないからな。

 ゲームシステムの推測はさておき、兎の死体を買ってくれるところがあるか聞いたところ、街の外の人間が売る場合は冒険者ギルドで行うことになっているそうです。

 そこで薬草や毒消し、テント、携帯食料や薪、野外活動で必要なものを取り扱っているし、ギルド周辺には武器屋や道具屋が集まっているので、買い物にも適しているとのこと。

 ここは南門で、ギルド本部は城の先の北門側、各門の付近にはギルドの出張所があって、南門のそばにもあるので場所を教えてもらった。


 ちなみに兔に倒されたらこの門まで戻った事を伝えたら、それは自然なことらしい。街の外で害獣や化物に襲われると、体力が尽きた時点で最寄りの街に移動するらしいです。

 神様のおかげだと思われるが理由は明確になっておらず、最初の頃は普通に戻れるが、ある程度強かったり、荷物を持っていたりすると、所持金が半額減っていたり、荷物もなくなっていたりするそうです。

 また街中で病死や事故死した場合はそのような奇跡は起きないとのこと。

 おかしいなと思ったのですが、そんな事をいったらバチが当たるので言わない方が良いと諭されました。


 まあ神様が優秀でも流石に全世界の人を同時に監視し続けるのは大変だろうからな。それに誰も死ななくなったら、世界はあっという間に人で溢れてしまって大変なことになるだろうし。

 自分が生き返れるならとりあえずいいか。


 親切なおじさんこと、ハンスにお礼を告げて、冒険者ギルドの出張所に向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る