人にとって自分とは

目が見えていない今も自分が確かにここにある、という事だけは認知できた。


「嬢ちゃん、許可もらってきたぞー」

しばらくして、オーガが帰ってきた


「なんか、その嬢ちゃんっていうの気に入りませんね」


「じゃあ、倉敷さん?」


「私の方が年下なんだからそれはおかしいと思います」


「じゃあなんて呼べばいいんだよ」


「「レミ」って呼んでください。」


「おう、わかった。そんで歩けるか?」


「歩けるけど見えないので、腕を貸してもらえますか?」


「ほい」


「どこですか?」


「ここ」


「あんまり意地悪しないでください、拗ねますよ?」


「意外と可愛げあるじゃねえか、ほれ」

腕を組んでくる


「当然です。目が見えなくなるまではめっちゃ美少女だったんですからね。」


「そうかい、俺に言っても年下趣味はねえから諦めろ」


「私もそんなつもりで言ったわけじゃないので安心を」

そこでどちらからとも無く


「「ふふっあはははははは!」」


「意外と息があってなんか屈辱です」


「俺もだよ」

お互いな悪態を付きながらも本当に嫌がっている訳では無い


「とりあえず、会社に向かおう、車を用意してある」

そういって手を組んでなれた様子で歩いては行くのだが


「む、むぅ、やっぱり見えないと難しいですね」


「そりゃそうだ。最初から普通に歩けたら心眼でも使ってんのかって話になる」


「あ、心眼。その手があったか」


「いや、それを使ったらもう人じゃあ無くなるからそれ!」


「冗談です」

駄弁りながら歩いていく、オーガの配慮だろう。できるだけ、暗いことを考えさせないようにしてくれている。やはりプロなのだろうか


「車乗るから頭ぶつけんなよー」


「言われなくてもそのくらっ!?」


「そーゆー振りじゃねえからぶつけなくていいぞー」


「え?振りじゃなかったんですか?」


「いや、お前天然でぶつけたろ」

そう、目が見えないってほんとに不便だ


「そんなことありませんもん」


「まあいい、会社に出発だ」


「安全運転でお願いします、粉微塵にならないでくださいね?」


「おおぅ、レミちゃん。心塞ぎ込んでたくせにもうネタにできるようになったんかい」


「はい、もうなんか不思議と吹っ切れました。これからのことを考えなければいけないので」


「そうか。逞しいこった。」






「着いたぞ」

そう言って乱暴に降ろされる


「……もうちょっと丁寧に下ろしてください」


「そりゃあすまんかった」


薬品の匂いがする、実験をしている、というのは嘘ではないようだ。


「それで?ここで何をしていけと?」


「そうだなー、設備体験だとか?」


「具体的には?」


「そうだな、歩行補助の杖とか?」

そういったなにか棒状のものを差出された


「どうやって使うんですか?」

そういうと後から包み込むように手が握られた


「これはなあ」

「セクハラですか?」

「ちっげえよ!……まあいい、これをついて歩くと転びにくくなる……ほれ!」

思いっきり押された


「ちょっなにし!?……あれ?」


「凄いだろ?転べないだろ?」


「はい、でもこれどうなってるんですか?」


「接地面が常に地面に対して90度を保つようになってる」


「ああ、通りで止まったわけですね」


「そゆこと、まあ、他にもいろいろあるから見てってよ」


「すいません見れません」


「そういうジョークじゃねえから」


「「知ってる」」


「被せないでください……」


「同じことしか言わねえんだもん。もっと色んなことおじさんと話そうぜ」


「発言が誘拐犯チックですね」


「地味に傷つくから止めて」







「まあ、ここが宿泊部屋になってる10畳の角が全部落とされて丸いものだらけになっている。」


「ベッド?布団?」


「どっちでも用意できる。」


「それは心強い」








「ここが風呂場」


「私が見えないからって覗ける仕掛けになってないですよね?」


「覗けるには覗ける。がロリボディに興味はねえから安心しろ」


「私……脱いだらそれなりにはあるんですよ?」


「そうか、それじゃあ確認のためにのぞかせてもらおうかな」


「ど、ドンと来いです」


「無理すんな」


「……はい」






「ここがホール」


「何をするんですか?」


「運動」


「見えない人用の運動ですか?」


「そうだな、ボールに全部鈴がついてたり」


「今度試してみたいです」


「おう、いいぞ」







「食事はどこで摂るんですか?」


「部屋に給仕が来る」


「ひとりで食べるんですか?」


「なんだ?レミちゃん寂しいのか?」


「見えないと食べれなく無いですか?」


「ああ、慣れてないのか。じゃあ飯の度に食べさせに来てやる」


「オッサンのあーんか……チッ」


「ちょっと待って!今舌打ちしなかった?」


「気のせいですよ気のせい気のせい(棒)」


「まあいい。大体回るところは回ったが他に質問は?」


「質問というか……私もうここでいいです」


「は?」


「病院にいても退屈ですし、オーガもいますし」


「お、おう、そうか」


「なんですか?不満ですか?」


「そういう訳じゃねえんだが、いいのか?ホントに」


「はい、私が決めたことですから」

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