第三章 裏切者はだぁれ?

第1幕 シナリオ・ノート

シナリオ・ノート



 真っ白な空間の中にぽつりと浮かぶのは木製の椅子と机。繊細な彫刻が施されたそれらを使う人影が一つ。

 密はガリガリとガラスでできたペンをノートに走らせる。


「あぁ、どうもできない? 結末は一つ。歯車を変えようとも結局は同じ。ああ、変わらない、変わらない、変わらない、変わらない」


 未来視で流れる映像を記録していっても、どうやったって結末は最悪のものばかり。様々なパターンを試してみても、どうやったって変わらない。


「未来が変わらない。世界が滅ぶ? でも、あぁ、ねぇ……滅ぼすのがノアなら、救えるのもノアでしょ? この二つの歯車は変わらない。滅ぼさせないように、でも――」


 ノアに死んでほしくない。

 大切なたった一人を救う為に、俺はたくさんの命を犠牲にしようとしている。知らない誰かを救う程俺はちゃんとできちゃいない。


「ねぇ……わからないよ」


 独り言は真っ白な空間、虚無に吸い込まれていく。はぁ、とため息を吐いて両手で顔を覆った。

 いくつもの分岐の中でまだ到達していない分岐がある。“彼ら”は必ずしも未来視と同じ方向に行くとは限らないからだ。その分岐を選んで、俺はノアをそこの世界に飛ばす。


「ノアとの同期ガできない。はジかれる……どうすればイイ?」


 ノアに似た容姿の女が虚ろな瞳で俺を見下ろす。いつの間にか机の真ん前にふわふわと浮いて、気紛れなように見せかけた行動でいちいち惑わしてくるのだ。


「同期はしなくていいよ。俺も行くから……。そのままいつも通りに飛ばして。次のパラレルワールドは……ここ」


 こてん、と首を傾げた女は気味悪い笑みを浮かべて歌い始めた。

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ツァイトの鎮命歌 雪城藍良 @refu-aurofu2486

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