第34話「ひとりぼっちの片思い」

 …たぶん、ぼくらは恋をしているのだ。

 寒い季節に道を歩くと、ぼくはいつもこのアパートの前で

 足が止まる。そこには、窓辺に座った女性がいて、ぼくの

 ほうをじっと見つめていた。

 ぼくは、あんまり視線があうのが恥ずかしいので、

 足早にその場を去ってしまうのだが、

 そうしている内に日が経って、

 彼女が離れて行ってしまうのが、

 ぼくにはたまらなく怖いことだった。

 そうして、ぼくは意を決すると、彼女のアパートに行って

 告白をする事にした。

 服はいろいろ考えたけれど、良く着るジーパンと上着にして、

 でも、花屋で一生懸命に選んだ花を持って、ぼくはアパート

 へと向かったのだ。

 …そうして、ぼくは衝撃を受けた。

 ぼくがアパートに着こうとした時、ふいに向こうから男性が

 やってくるのが見えた。暗がりでよくは見えないが、青年

 くらいで、特に目的もなく歩いているような感じがした。

 そのときだった。

 ふいにガチャンという音と、ばたばたという音がしたかと

 思うと、階段から一人の女性が降りて来て、すぐさま青年を

 姫様だっこして、どこかへとさらっていったのだ。

 ぼくは、それを見て手に持った花束を地面に落とした。

 それは、暗がりでよく見えなかったが、

 あの窓にいた女性で間違いはなかった。

「そんな…彼氏がいたなんて…。」

 外灯にうつった肌が緑がかった白だったとか、

 開けていた目が白濁していたとか、そんなことは関係ない。

「ぼくらは、両思いだと思っていたのに…。」

 そして、ぽろぽろと涙を流しながら、ぼくはそのまま自分の

 住んでいるアパートへと帰っていった。

 …大学で、タケシの兄さんが屍蝋化した死体の女にさらわれた

 と話を聞いたのは、その後日のことである…。

 

 

 

 

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