第32話「たぬき金」

 タケシが道を歩いていると、一万円札が道端に落ちていた。

 周囲は雑木林。一本道の道路にはなぜか点々と万札が落ちていて、

 最後には雑木林のなかへとつながるようになっている。

 正直「なにこれ」と思っていると、

 近くに来たじいさんが親切に教えてくれた。

「兄ちゃん、こいつあ『たぬき金』っちゅうやつだ。そいつについてくと

 葉っぱつかまされるうえに肥だめに落とされっぞ。行かんほうがええ。」

 タケシはそれを見て「ふーん」と思っていたが、

 次に目の前を見てぎょっとした。

 兄貴だ。兄貴がやってくる。

 しかも、目は万札にくぎづけだ。

 嫌な予感を抱きつつ、農家のじいさんとともに見守っていると、

 案の定というか、兄貴は万札を拾い出した。

 目がマジというか、明らかに交番に届ける気のない感じだ。

「ありゃあ、パクる気満々か。君の兄さんちょっと将来が心配だべ。」

 そんなじいさんの恥ずかしくなるような言葉を聞きつつ、

 状況を見ていると、ふいに向こうから何かがやってくるのが見えた。

 タヌキだ。雑木林から一頭のタヌキがやってくる。

 タヌキは自分が敷いた万札を丁寧に拾い、

 両手一杯に抱えながら歩いていく。

 抱えた万札はすでに葉っぱにもどっているのだが、

 兄貴はそのようすにまるで気づいていない。

 そうして、葉っぱを抱えるタヌキと万札を拾う兄貴がかちあったとき、

 ふいにタヌキは兄貴を持ち上げてすごい早さで去って行った。

 兄貴も、抵抗する事無くそのまま連れて行かれる。

「…君の兄さん、かなり将来が心配だべ。」

 そうして、あとには農家のじいさんのつぶやきだけが残ったのであった…。

 


 

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