第31話「兄の一日観察日記」

 平成◯年7月25日

 兄貴があまりにさらわれすぎているので、夏休みの自由研究として

 その日一日の行動を観察をしてみることにした。


 AM 7:00

 起床…のはずが部屋にいない。窓を見ると携帯をもったパジャマ姿

 の兄が白いワンピースを着た人形にさらわれていくのが見える。


 AM 8:00

 朝食。兄、一人で戻って来ると、もそもそとパンと目玉焼きを食う。

 ねぐせのついた部屋着で、パジャマは地面に引きずられたときに

 土まみれになったので洗濯に出したと母に報告。

 母、露骨に嫌な顔をする。

 父、うちの裏の爺さんがついさっき床の間で大往生を遂げたと報告。

 家族に緊張走る。同時に窓から三角巾と白い着物の爺さん登場。

 明らかに死んでいるが兄を担いで窓から去って行く。

 父はあやまりに行くのと、通夜に出席するために喪服に着替える。


 AM 9:00〜11:00

 死んだ爺さん、なかなかつかまらず。

 10:00過ぎに警察の世話になってようやく引きはがす事に成功。

 だが川付近にいたために、兄、河童につかまる。川は昨晩の雨で

 増水及び流れが激しいために、兄と河童は下流まで押し流される。

 

 AM 12:00

 ともに川に流されたためか、兄、河童と友情を育み、河童から昼食

 のキュウリを渡される。兄は泣きながらそれを食す。


 AM 13:00〜?

 兄、河童から解放され徒歩で家に帰ろうとする…も、途中で行方が

 わからなくなる。ただ、同時刻にひげや髪がぼうぼうの兄と似た顔

 をした背の高い男が道を歩いていたという報告を近所の主婦から得る。

 理科の先生に聞いた所では、どうやらその辺りは磁場の関係で、時間

 と空間が交錯しているらしく、兄はその次元のはざまに飛びこんで、

 何年も経ってからここに戻って来たのではないかという推論が出た。

 …今後の参考にしたいと思う。


 AM 14:00

 家に帰ると兄が普通にいた。同先生の話では、どうやら兄が迷い込ん

 だときに「帰れる未来」と「帰れない未来」に分かれたらしく、家に

 帰って来た兄は前者だという話であった。

 そして兄は二階から財布を持ち出し、近所のコンビニへと出向く。

 どうやらキュウリだけでは腹の足しにならなかったらしい。

 そうして、買って来たコロッケを食べないうちに、首の無いバイク男

 に襟首をつかまれて連れて行かれる。連行中もコロッケを食すところ

 は見ていたので、食に関しては良しとする。


 AM 14:20〜15:00

 バイク男、寺付近に来たところ、流れる坊主の読経を聞いて兄を放す。

 兄、腰をさすりながら立ち上がり、帰りのバス停を探す。

 そして、バス停のところまで来たところで、大量の骨に組み付かれる。

 どうやら、墓の中に埋まっていた無縁仏らしい。幸いにして、通夜に

 行く途中の父に見つかり、骨を除いて住職に頭を下げて帰してもらう。


 AM 15:00〜17:30

 自室にて、泥のように眠る。

 今日の疲れもあったのだろうと思っていたら、胸の上にカマを持った

 黒いフード姿の男が座っていた。なんだか兄の顔が白くなっていくが、

 たぶん夕飯までには目覚めるだろうと思い、ほうっておくことにする。


 AM 18:00〜20:00

 夕食後、風呂。なんだか兄の気分が悪そうだ。

 おそらく数時間死んでいたためと思われる。

 父、通夜から帰宅。

 母が持って来た清めの塩を父の頭にふりかけようとするも、目の前で

 どろどろに溶ける。階段から降りてきた兄と両親の空気が気まずくなる。


 AM 21:00〜

 これまでの記録を兄に読ませてみる。

 兄、「いや、俺こんなにさらわれてないって、ありえないって。」

 といって全否定をする。それと同時に開けた窓から天狗登場。

 兄をさらって窓から飛び去って行く。

 俺、眠くなって来たのでここで今日の観察日記を終える事とする…。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

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