第30話「こっくりさん」

 放課後の教室で、ミキとユキとわたしは三人でこっくりさん

 をすることにした。

 こっくりさんというのは、紙に「はい」と「いいえ」と数字

 と五十音、そして鳥居の絵を書いて、その鳥居の上に十円玉

 をのせて、みんなで指を置いて質問をしていく遊びだ。

 昔はお母さんたちも「占い」ってことでしていたらしいけど、

 学校でキツネやタヌキに取り憑かれちゃう子が出たとか、

 けがする子が出たとかで、学校で禁止されて、それでする人

 がいなくなっちゃったというはなしであった。

 でも、話だけじゃなんだかわからないし「とりあえず、まず

 はためしにやってみようよ」ということになって、こうして

 教室で遊んでみる事にしたのだ。

 そして、紙が完成したわたしたちは、さっそくこっくりさんを

 呼び出してみることにした。

「こっくりさん、こっくりさん、いらっしゃいましたら鳥居の

 中にお入りください。鳥居の中にお入りください…。」

 そうしていると、鳥居の上に置いた十円玉がススーッと動き

 だした。

「あ!こっくりさん来たよ!質問、質問!」

 そういうミキに、わたしたちはいくつか質問をした。

 今学期の通信簿の成績、将来できる好きな人の名前…

 たあいない質問をいくつかしていると、確かに十円玉は右に

 左にすいすい動いた。でも、内心私は思っていた。

 「これは、誰かが動かしているんじゃないのかな」って。

 でも、わたしは二人が驚いたような顔をしているからあえて

 言わないでおくことにした。

 …そうして、あらかた質問が終わったころだった。

 結構時間もたっていたから、わたしたちは今日のところは

 これで、とこっくりさんに帰ってもらうことにしたの。

「こっくりさん、こっくりさん、お帰りください。」

 すると、十円玉はススーッと動き、そして「いいえ」のところ

 で止まった。わたしは内心「困ったな」と思いつつミキとユキ

 の顔を見た。たぶん彼女たちのどちらかが怖がらせようとして

 やっているのがみえみえだったからだ。

 でも、彼女たちも顔を青くしてこちらを見ていた。

 わたしは不思議に思いつつ、もう一度お願いしてみることにした。

「こっくりさん、こっくりさん、お願いです。お帰りください。」

 すると、こっくりさんは円を描くようにくるりと回ると、再び

 「いいえ」でとまった。

 そのとたん、ミキが声を上げた。

「…いや、わたしもう帰る!」

 そうして、十円玉から指をはなそうとするミキにユキが注意した。

「ダメだよ!こっくりさん、まだ帰してないよ!」

 すると、それに反応するように十円玉は勢いよく、ぐるぐると

 回り始め、つぎつぎと文字を指し示す。

「カ・エ・ル・ナ、カ・エ・ル・ナ…」

 わたしは、その文字を読んで、そうしておそろしくなった。

 そう、ここに来て始めてわたしはことの重大さに気がついたのだ。

 この遊びは、軽い気持ちでしていいものじゃなかった。

 学校がこの遊びを禁止したのはこうなるからだったのだ。

 そうして、誰が誰ともわからないような悲鳴をあげたとき、ふいに

 十円玉の動きがぴたっと止まったの。

「?」

 わたしたちは、一同に顔を?マークでいっぱいにした。

 そうして十円玉はススーッと動くと、勝手に鳥居に戻って行ったの。

「あ…あれ?こっくりさん、帰っちゃったよ?」

 すると、突然校庭側の窓から叫び声が聞こえた。

「ぬわー!」

 わたしたち、それを聞いて反射的に校庭を見たわ。

 そうして、あまりの驚きに目を丸くした。

 だって、そこには校庭に集まったたくさんのキツネに、モフモフに

 されているタケシのお兄さんの姿があったんだもの。

「やめ、やめて、しっぽ、しっぽが顔に、足元やめてー!」

 そうして、タケシの兄さんはたくさんのモフモフに囲まれた状態で

 どこかに運ばれて行ったの。

 わたしたちは、それを呆然とながめながらも、いつしか十円玉から

 手をはなしてしまったことに気がついたわ。

 でも、たぶん大丈夫ということはわたしたちにもわかっていた。

 だって、こっくりさんはタケシの兄さんを連れて行ってしまったから。

 …こうして、わたしは教室に残った紙と十円玉を片付け始めた。

 確か、この十円玉はその日一日で使い切らないとならないはずだ。

 …あとで、タケシの兄さんの家にあやまるのに公衆電話を使おう。

 そんなことを考えている隣で、ユキがこう言った。

「あーあ、わたしもモフモフされたかったな。」

 …確かに。

 そうして、わたしも内心うらやましかったなと思いつつ、残りの

 紙の片付けにいそしんだのであった…。

 

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