第28話「まぎれていたホンモノ」

 …このあいだはハロウィンだった。

 晩節祭とか、さまよえる幽霊がランタンを持って出るとか、

 でも、これまでのわたしはどうしてそんなお祭りがあるのか

 考えることすらしていなかった。

 漠然とした感覚では、ハロウィンていうのは外国産のイベント

 で、コスプレするとただでお菓子をもらえる何かのお祭りだと

 思っていた…でもね、ちがったんだ。

 あとで調べたら、仮装をするのは隠れるためだって、お化けに

 連れて行かれないように、子供たちがお化けをだますために

 変装をする祭りなんだって。

 そう、本には書いてあったの。

 …まあ、わたしの話をすると、あの日のわたしはいつも集まる

 仲間とつるんでお化けのメイクをして街を歩いていたの。

 仮装のテーマはゾンビ看護士で、口から垂らした血やわざと

 ぼろぼろにしたナース服や、自分のお手製の巨大な注射器を

 友達に見せたりして結構楽しんでいたのを覚えている。

 そうして、人ごみが少しすいてきたころ、わたしは明日も仕事

 があるからって早めにみんなと別れたの。

 そうして、少し会場から外れたところにあるイベント時だけの

 特設更衣室に行こうとしたら…わたし、出会っちゃったの。

 そう、最初こそ、わたしは数メートル先にいるその女の人を

 わたしみたいにコスプレしてる人だと思っていたの。

 でも、ぽたぽたと滴の垂れた髪や、うっすらと透けてる足元、

 そして何よりも、向こう側が見えるくらいに大きくえぐれた

 脇腹をみて、何かがおかしいと思ったの。

 そしたらね。そいつ、こっちを見てこう言ったの。

『あなたも、見えているのね。』

 その途端、わたしぞっとしちゃった。

 だって、わたしと女のあいだには何人もの人が行き交っている。

 なのに、これほど離れているのに、女の人の声だけがここまで

 はっきりと聞こえるのだもの。

 わたし、それで気づいたんだ。

 これって…霊なんじゃないのかって…。

 そうしたら、こわくなっちゃって、わたし急いで特設更衣室

 に走ったの…でもね、そのときはなんでかわからないけれど

 まわりにあれほどいた人ごみがいっさい無くなっていて…

 一応、変だとは思っていたんだよ?

 でも、とにかく更衣室に逃げ込まなきゃって思って。

 …それでわたし、逃げ込んだの。

 七つあるうちの、特設更衣室のひとつに…。

 …最初こそ、自分の心臓の音と吐く息の音しか聞こえなかった。

 でもね、次第に聞こえて来たの。

『ここじゃな〜い』

『ここでもな〜い』

 そのたびに、バタンッ、バタンッていう、ドアの閉まる音…

 わたし、あのときほど血の気が引いた事はない。

 だって、あの音はあきらかに誰かを探している音だったもの。

 そうして、その音はだんだんと近づいて来て、もうあと二つの

 個室になったとき。

 …ふいに周りが静かになったの。

 わたし「え?」と思ったわ。

 …もしかして、もういなくなったのかも。

 そう思ってドアノブに手をかけようとした瞬間、

『タケシのにいさんを見つけた〜』

 そうして、隣のドアのばたんという音がして、「うわ〜」って

 いうマヌケな声がしたの。

 そうして思わずドアを開けて…そして、わたし見ちゃったの。

 そう、ホンモノのタケシの兄さんがあの女のお化けに担がれて

 連れさらわれていくところを…。

 そしてわたしは、その様子を呆然とながめていた…。

 …結局、わたしは電車を一つ遅らせて帰ることになったわ。

 …でも、後悔はしていなかった。

 だって、ホンモノのタケシの兄さんを見れたんだもの。

 そして、ハロウィンの日には、たしかにホンモノが出るってこと

 をわたしはあらためて知ることができたの…!

 

 

 

 

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