第25話「階段」
…のぼっても、のぼっても終わりが見えない。
「ねえ、ゆうちゃん。…本当にあと一階ぶん歩けば
わたしたち、教室につけるんだよね?」
おそるおそる聞いてくるミオの言葉に、ぼくは素直に
「うん」と答えることができなかった。
…小学校、三年のお泊まり会。
ぼくらはあらかじめ決めていたとおり、先生の目を
ぬすむと三階にある『おばけ階段』へとあがった…。
『おばけ階段』はその名の通り、のぼってものぼっても
上にたどりつけないといわれる階段で、もし一番上に
たどりついたときには、そこはおばけのいる世界だと
ぼくらのあいだではささやかれていた。
…でも、ぼくはそんなうわさ信じていなかった。
だって、もし階段から降りれないのなら、そんな話を
すること自体ができないのをぼくは知っていたからだ。
…だからこそ、このどこまでも続く階段がなんなのか、
ぼくにはわからなかった。
…本来なら、この階段は屋上へと続くはずだ。なのに、
どこまであがっても、そこには階段しかない…。
「ゆうちゃん、わたし怖いよぉ…。」
いまにも泣きだしそうなミオを見て、ぼくはこの冒険に
ミオをさそってしまったことを後悔していた。
思えば、ことのはじまりはミオが今年の冬に引っ越しをして
しまうという話を聞いたからであった。
それで、ひとつでも思い出作りをしたいと思い、こうして彼女を
巻き込んでしまったのだ。
…でも、ぼくはミオの泣く顔は見たくない。
そう、ぼくは決意するとあらかじめポケットに入れていた携帯を
取り出し、電話をかけた。
…予想通り、電話のアンテナは一本も立っていない。
でも、これは賭けだった。
…たぶん、あの兄ちゃんなら出てくれる…。
ぼくは祈るような思いで、相手が電話に出てくれるのを待った。
すると三回めのコールの後、ふにゃけたような声がかえってきた。
「んだよ、裕一郎。こんな夜中に近所の兄ちゃん呼び出して…
兄ちゃん眠いんだぞ。」
…思った通りだ。
ぼくは、ゆっくりと唇をなめるとこう言った。
「兄ちゃん。起きてまわりを見渡して…何か、変わってない?」
そのとたん、電話の向こうで驚いたような声があがった。
「うお!?何この階段。俺、さっきまで寝てたんだけど。
なんでこんなとこにいるの?っていうか、何か来てる!
上のほうからいっぱい何か来てるぅ!?」
そうして、ザーッというノイズ音とともに電話は切れた。
それと同時に、後ろの方でミオが叫んだ。
「あ、ゆうちゃん!私達の後ろに三階の廊下が見えるよ!」
ぼくはそれを聞いて、おそるおそる後ろをふりかえった。
そこには、いつものとおりの三階の渡り廊下が見えていた。
そうして、目の前にはどこかほっとしたような表情のミオが
立っていて、ぼくのほうを見ていた。
そのとたん、急な罪悪感がわいてきて、ぼくはミオに頭をさげた。
「…ごめんな、ミオ。こんなことに巻き込んじゃって。」
そう言うと、ミオはきょとんとしてから、首を横にふった。
「ううん。ちょっと怖かったけど。どきどきした…それだけだよ。」
そうして、ミオはえへへと笑う。
気がつくと、ぼくも同じように笑っていた。
こうして、ぼくたちは手をにぎりあって、
教室へと帰っていったのだった…。
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