第22話「鎧武者」
三度目の学校の宿直当番。
私は緊張した面持ちで校内を見回っていた。
なにせ、昼休みに古株の安田先生からこの学校にまつわる怖い話を
聞いてしまっていたからだ。
「…先生、知っていますか?実はこの学校、鎌倉時代には大規模な
合戦が行われた場所だったのですよ。それで、供養のために寺が
建てられて、のちに寺子屋になって、そしてさらに時代を経て…
この学校になったというわけなのです。」
ぜこぜこと声を荒げつつも、安田先生は言葉を続ける。
「…ですからね、今晩みたいな赤い月の夜になると出るんですよ。
…何がって?馬に乗った鎧武者の霊ですよ…。先生も、今日は
ゆめゆめ校庭を見ないほうが良いと思いますよ。さもないと…。」
そうして、安田先生はひっひっひっ…と引きつった笑い声を
あげながら廊下の奥へと消えて行った…。
…そして夜、私は半ば怯えながら廊下を歩く。
大丈夫、外を見なければいいのだ。
第一この時代に、鎧武者なんているはずがないのだ。
安田先生も人が悪い…。
そんなことを考えながら一階の廊下まで来ると…。
…ふいに馬のひずめのような音が聞こえて来た。
ダカッダカッダカッダカッ…
その断続的な音に、私は思わず校庭のほうを見てしまう。
そして、大きく目を見開いた。
大人の二人分の大きさはあろうかという巨大な骨の馬、
その鐙の上に乗った細かい細工のほどこされた鎧には首がなく、
その巨大な腕で抱えられていた兜からは腐った首が覗いていた。
そう、それはまぎれようもない…鎧武者の霊だったのだ…!
そして、その後ろには何かが乗せられている。
それが何なのかわかったとき、私は再び驚いた。
「…タケシの…お兄さん!」
そう、そこには馬の背中に乗っているためか、今にも酔って
吐きそうな顔をしたタケシの兄さんの顔があったのだ。
そうして私が驚いていると、さらに馬に近づく二つの影に気がついた。
「人体模型と…二宮金次郎の…石像?」
そう、まるで馬に追いつこうとするかのように、顔色を変えぬ二体の
人形と石像が猛ダッシュで走ってくるのだ。
…もしかして、タケシの兄さんを助けようとしているのか…!?
そして二体は必死の表情(?)で、馬に近づくと、勢い良く馬に乗り込み、
…タケシの兄さんを抱え…そのまま、どこかへと消えて行った…。
そして後には、呆然とした表情の鎧武者と、校内にいる私だけが残された…。
「…なんだ、ただのナワバリ争いだったのか…。」
そして、私はなんとなく飲み込めたこの状況のために落ち着きを取り戻すと、
再び夜の見回りへと戻って行ったのであった…。
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