第19話「チュパカブラ」
南米から日本へと向かう貨物船のなかにそれはいた。
らんらんと光る赤い目玉、ふぞろいな牙の生えた口。
子供のような体型はぬめりとしていて、身体にこびりついた血はすでに
乾きつつも悪臭を放ち続けていた…。
その生き物は持っていた冷蔵庫内の豚肉を床に落とすと、船内の厨房から
這いだし、歩き始める…そう、冷蔵庫にある肉からしみだすものではない、
新鮮な血をその生き物は求めていたのだ…。
そうして、船内をはいずっていると生き物は一人の人間をみつけた。
その人間はヘルメットをかぶり、下にいる人間に何か指示を出して
いるようだった。
だが、生き物にとってはそれはどうでもいい部類のこと。
すぐさま身体を折り曲げるとそのままヘルメットの男のほうへと飛び出し
―…下の通路へと落ちていった…。
「うわ!何か落ちて来た!」
タケシの兄はとなりに落ちた生物をみると、びびったように飛びすさった。
生物は船の甲板から10mはある高所から落下したショックなのか、もはや
ぴくりとも動かない。
「◯×□△××…!!」
ふいのどなり声に顔を上げてみれば、アルゼンチン出身の貨物船に偽装した
マグロ漁船の副船長が甲板の上で向こうの言語で何ごとかを叫んでいる。
周囲からサーチライトがあたっている事と、ニュアンス的に考えれば、
おそらく海上保安庁にこの船のことがばれたということだろう。
…運が良ければ自分も保護してもらえるかもしれない…。
そんな甘い期待を胸に、タケシの兄はつと下を見た。
「それにしても、こいつなんなんだろうな…。」
その生き物は両手を空をつかむかのような形にしながらも、失神している。
こうして、南米から船に乗り込んできたチュパカブラは、誰の血も吸うこと
なく、海上保安庁に引き渡され…後に日本の研究所の重要資料として丁重に
保護される事となったのであった…。
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