第15話 「四隅まわり」

「気がつかれましたか?」

 目が覚めると、僕らは病院のベッドにいた。

 腕や足には包帯が巻かれ、看護士の話を聞けば、みなここに来たとき

 には軽度の凍傷を負っていたということであった。

「この病院に来られたときには、あなたがた四人と、あともう一人…。」

 そこまで聞いて思い出した。

 そうだ、確か僕らは雪山で遭難をしたのだ。

 理由は滑落事故、僕ら五人のパーティのうち一人が頭部を強打して

 …もう死んでいることはわかっていたのだけれど、

 それでも彼を下山させようとしたところで猛吹雪にあってしまったのだ。

 そして、僕らは近くの山小屋に避難した。

 でも、山小屋といっても簡易的なもので、電気はおろか薪ストーブなんて

 シャレたものなどありはしなかった。

 もちろん、すきま風は容赦なく入って来る。

 少しでも眠ろうものなら、そのまま永眠になるのはよくわかっていた。

 …だから、僕らはゲームをおこなうことにした。

 四人が四隅に立って、次の人間にタッチして回るゲーム。

 これなら、からだも動かせるし眠らずにもすむ。

 そうして、僕らは四隅に行くとさっそくゲームをはじめた。

 …最初こそ、ゲームは快調に進んでいるように思えた。

 暗闇の中で、次の角の人間にタッチし、次の人間がまたタッチをする。

 …でも、それをしばらく続けていたら奇妙な事に気がついたんだ。

 そう、このゲームは四人では成立しない、五人いないとできないと。

 確実に、一人が余ってしまうゲームであると…。

 僕はそれを知った途端にぞっとした。

 そして、暗闇の中心である部屋の真ん中に目をやった。

 そう…そこには僕らの仲間であり、すでにこの世からいなくなった友人が

 横たえてあった。

 しかもこのとき、僕はもう一つの事実に気がついていた。

 実は、このゲームをする前に僕らは順番を決めていたことを。

 そして、最後の四番目にあたる人間が僕であることを…。

 じゃあ、目の前にいるのは誰なのか、本当に生きている人間なのか…

 しかしそのとき、僕はうしろの人間にせっつかれるようにタッチをされた。

 そして僕は悟った…そう、生きるためには走り続けなければならないと。

 …そして、僕は意を決して走ったのだ…。

「でも、みなさん、あの猛吹雪の中で自力で下山できるなんて本当に

 運の強い方たちですよ…。」

 その、ふいの看護士さんの言葉に僕は再び思い出すことがあった。

 そう、あの山小屋で僕がタッチしたもの。

 それはあの日偶然山小屋に迷い込んだタケシのお兄さんだったのだ。

 そうして、僕らはそのまま何かに誘われるかのように彼と友人の遺体

 を抱えると、そのまま吹雪の中を下山して病院につき、玄関口で気を

 失った…それが、この事件の真相であった…。

「驚きましたよ、夜中に外来で四人も凍傷の患者さんが来るなんて。

 しかもみなさん、それぞれに片腕に亡くなったお友達を抱えて、

 もう片腕にタケシくんのお兄さんをかかえて…最初お医者さまは

 なにかできの悪い見せ物かと思ったくらいですからね。」

 少し怒りながらも看護士さんはわずかに笑っていた。

 そうして、僕は思った…そうだ、命あってのもの種だと。

 僕は病院の室内を見渡した。

 そこには、僕の友人たちがいた。一人は欠けてしまったけれど、

 そこにいるのは確かに苦楽を共にした仲間だった…。

 …そうだ、病院を出たら、まずはあいつの供養に行ってあげよう。

 そう考えると同時に、僕はあることに気がついた。

「あの、タケシのお兄さんは、あのあとどうしましたか?」

 すると、看護士さんはこまったように微笑んでみせた。

「ええっと、確かあなたたちが病院で倒れたあと、憮然とした表情で

 立ち上がって帰って行ったわよ。なんかこういうことってよくある

 みたいで、大変よねぇ…。」

 僕はそれを聞いてうなずいた。

 タケシくんの兄さんは奇妙だ。

 だが、奇妙だから助かる命もある。

 僕はそれを、この身をもって学んだのであった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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