第10話「後ろに乗せた女」

『××霊園までお願いします。』

 …女はそう言うと、私のタクシーの後部座席に乗り込んだ。

 だが、何かがおかしい。

 私が話題をふっても何も答えないし、

 おまけに全体がしめっぽく濡れているような感じさえする。

 …うつむいたまま、何も答えない女。

 霊園まで連れて行けという女…。

 そういえば、タクシードライバーのあいだでは、

 そんな女をのせると決まっていつのまにか姿が消えていて

 座席だけがしめっているというじゃないか。

 そう言われれば、相手の女は顔が青白い。

 それどころか、白い着物に三角の布までつけている。

 …これが、件の女なのか…!?

 そのとき、ふいに近くの歩道を歩く男が目に入った。

 …あれはたしか、タケシくんのお兄さん…。

『とめてください。』

 ふいの声に、私は耳を疑った。

 まてよ、まだ霊園にはついていないぞ。

『いえ、とめてください。料金は払いますから…。』

 そうして、女はそそくさと懐から千二百円を置いて行くと、

 私の車から降りて、今きた道をもどって行く。

 しかし、その足元には足がなかった。

 なのに女はするすると道をすべっていく。

 …やはり、女は幽霊だったか…。

 そうして、女の幽霊はタケシくんのお兄さんを出会い頭に

 タックルして片腕に抱えると、

 そのまま闇の中へと消えて行ったのである…。

 

 

 

 

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