第2話 水流放て!2

ドアノブをぐるりとまわし大きくドアを開けると持っていた水鉄砲を正面に構えた。

「おー、まさかこっちに来るなんて、先輩の言う事を聞かない後輩だねー。宇美うみに山の小屋に来いって言われてたはずだよねー?」

水鉄砲を向けられているのにも関わらず堂々と椅子に足を組んで座り、全く抵抗する素振りも見せないその人はむしろ水希みずきが来るのがわかっていた様に話す。

「王は水湊みなと先輩ですよね?ならばこの状況は先輩達にとってはなかなか絶望的な状況なのでは?王が倒されるとその時点で勝負が決まるこの競技で王が敵の王でもないただの兵士に背中をとられているなんて」

「確かにそうかもしれないけど、君たちのチームは君がいないと機能しなくなるっていうこともわかってる?君はただの兵士じゃない。チームを動かす司令塔だよ?」

水湊はただただ落ち着いた様子で淡々と答え、問いかける。

「確かにそうです。けど敵の王を討ち取ればそんなこと関係ないですよ」

ありのままに思っていることを言葉にしている時に違和感に気付く。

あれ…そういえばなんで王に護衛が付いてないの?水湊先輩は確かに1人でも相当強いけど、それでも護衛がいないなんておかしい。少なくともいつもならとても仲がいい瑠璃るり先輩がいる。1人でいたことは今までには1度もない。それに背中をとられてもこの余裕な感じ。もしかして…

「水湊先輩、瑠璃先輩はどこですか」

自分の出した結論が正しいことを、そしてそれが間違ったものであってほしいと思いながら恐る恐る尋ねる。

「味方の情報を敵に売る人が私達の中にいると思った?と言いたいところだけど、模擬戦だしね。いいよ、教えてあげる。瑠璃はね、水希、あなたの——」

「真後ろよ」

すぐ後ろから聞こえた声に咄嗟に振り返り水鉄砲を構える。

中型の水鉄砲を構えた黒髪ロングが目に入り、慌てて距離をとろうとするがその時に自分の絶望的な状況に気付く。

「じゃあ水鉄砲を下に置いてくれるかな?」

瑠璃は余裕を含んだ表情でそう言う。

どうにかしてこの状況を打破する方法を考えるが水希には案が出てこない。

「んー…多分どうにかしてこの状況を変える方法を考えてるんだろうけど諦めた方がいいよー」

水湊は真剣な言葉遣いから元の緩い話し方に変わり、ただ中型の水鉄砲だけを構えている。

水希が瑠璃に気を取られた一瞬に腰から水鉄砲を取り外し、水希が瑠璃から距離をとろうとした時には既に発射準備すら完了させていた水湊の動きは全国でも注目されているだけあって凄まじく早く正確だ。

「そうそう。絶望をさらに味わうことになるよ」

そう言うと瑠璃は手招きしてドアの外へと導いた。

「…はぁ。投降します」

水鉄砲を地面に起くと腰に手を当てて頭を軽く落とした。

外には部室内から外を見た時には見えないがその範囲外に総勢12人が待っていた。

「まぁでも落ち込むことはないんじゃない?小屋に行かずにこっちに来てることを考えればあなたはよくやれた方よ」

「そーだねー。ただ1つ言うことは、先入観は試合毎に捨てなければならないってことくらいかなー」

その言葉を言われるのはわかっていた。振り向いた水湊の胸には王の刺繍がなかった。王の刺繍が胸にあったのは——

「水希、よく頑張ったわ。じゃあちょっと付いてきてくれる?」

無線で投降を促してきた本人、涼風すずかだった。

「いってらっしゃーい」

「頑張ってね」

水湊と瑠璃が送り出してくれることにお礼をして涼風に付いていく。

「あのー、先輩。他の子は?」

ここにこれだけ集結していたのだ。あの無線は嘘だったというのは確実だろうし、そうなるとまだ私以外はやられていないはずだ。

「ん?他の子達ならもう運動場15周走ってるよ」

その言葉に心から驚かされた。

「いつの間に…」

「あれ、無線で言ったよね?全滅したから投降しなさいって」

間髪いれずに答えられると何も言えなくなる。

制圧する時間を思い返すと水希が無線を終えてから涼風が無線をかけてくるまでのほんの数分もたたない時間のはずだ。その間に制圧するとなると力の差が歴然としすぎていて実力の差を認めざるを得なくなる。

「まじ…ですか…」

「まじです」

何か変なことでも?と言いたげに涼風が答えるのが水希には恐ろしくすら思えてくる。

「…ところで今からどこに行くんですか?私も運動場を走らないといけないんじゃ…」

「いーや、水希は司令塔になる試験をクリアしたからね。別メニューよ」

「え…」

涼風の発言にぴくりと反応し、喜びが徐々に溢れてくる。

「これからは司令塔として頑張ってもらうから、しっかり勉強してね」

その単純な言葉が嬉しくてついつい顔が歪んでしまう。

それでも大きな声で——

「はいっ!」

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