第9話 分かりあうこと

「お!かつやくんじゃないか〜いらっしゃい。ほらほら座って座って」

「はい、分かりました」


俺は静かに席に座った。

今日部室に来たのは諸星さんに聞きたいことがあったからだ。

この入れ替わりや台本での一連の出来事は一見とても複雑だと

思っていた。だがそれは物事としてしか最初は見てなかったからだ。


「今日は実は諸星さんに聞きたいことがあるんです」

「 そうか、それは悩み事かい?」

「いえ、質問です」

「なるほど。なら場所を変えようか。まあ、てきとうに空いた場所で

いいだろう」


そして俺と諸星さんは部室を出て、校内の空いてる教室に入った。

「よし、なら聞いてみるとするか!それで質問の具体的な内容は何だい?」

「端的に言えば動機ですかね?」

「そうか、それで質問の内容は何だい」

「諸星さんはどうしてわざわざ台本を用意したんですか」

「そうだなぁ…じゃあ君は誰が誰と入れ替わったと思う?」

「そうですね…普通に考えたら誰が誰かなんて全く分からなかったです。

実際問題自体がすごくややこしいと思ってましたから」

「そうだな、大変だな」

「でもよく考えたら何でわざわざ3人に台本をもたせたのかなって

考えたんですよ。何でややこしくしたのかなって?それで逆から

考えたら分かったんですよ。普通なら入れ替わりがあったら誰が誰かを

確認しようとする。でもそれをややこしくした。それはつまり。

入れ替わりが嘘だからですよね」

「そうだ。その通りだ。俺も最初はびっくりしたけど気付いたんだよ。

千秋ちゃんがさ、俺のこと諸星さんってその時言ってたけど

西沢も佐野も普段は俺のこと先輩と呼ぶのに何で入れ替わったはずの

千秋ちゃんの俺の呼び方が変わらなかったんだろうって」

「それで気づいたんですね」

「あとはやけに息ぴったりだったからな。だがなよく考えてくれ。

何で3人は入れ替わりの嘘をついたんだと思う?」

「え…?」


確かにそのことについては全く考えてなかった。

何で3人はそんな嘘をつく必要があったのかを。


「俺はな思うんだ。もしかしたら西沢はお前のことをもっと

知りたかったのかもな。だからこんな回りくどいことをしたんだと思う」


そうか…俺もちゃんと西沢のことを理解できて無かったんだ。


俺たちは幼馴染だったしいつも一緒にいたからお互いのことを知ってて

当たり前だと思ってた。でも俺は勘違いをしてたのかもしれない。

俺たちは確かに互いに一緒にいたいと、側にいたいと思ってた。

だけどそれをはっきり口にして、ハッキリと気持ちを伝えることが

とても大切だとその時ハッキリと分かったんだ…。






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