第28話 隣

 電車の中、城太郎に帰りの時間をメールする。なんだか少し離れただけでずっと会ってないような気がした。

 会いたいなあ。

 すぐに返事が来た。『駅で待ってる』と。

 何だか私の気持ちが伝わったようで嬉しくなる。


 行きは尚也とどう話をするか悩んでいたから、あっという間に着いたのに、帰りは城太郎に会いたいという気持ちで心が焦る。こんなに時間かかったっけ? と思いながら次の駅を心待ちにする。

 メールが来た。城太郎かな?

 葵だった。葵には確実な情報が伝わったみたいで、明日帰ってくるのが予定では夕方着を朝に変更したという。城太郎のバイトは昼過ぎからだったから変更したんだろうな。お母さん伝えるのが早過ぎる。きっとあの後すぐに志乃さんに電話したんだろうな。そして、志乃さんはすぐに葵に。

 まあ、伝え方を悩んでいたからそこはいいんだけど。

 けどー! と、すぐにメールがまた来た。城太郎からだった。『なにして来たの?』だった。確かに私の仕業だもんね。私は長いメールを打った。母に了解を得る為に話をしてきたことなど。本当は会って話そうと思ってたのにー! 早い。早いよ。お母さん。


 メールのやり取りがあったからかそこからはあっという間の時間だった。

 電車はホームに到着した。電車を降りて見回す。


「遥!!」

「ごめん! 勝手なことして!」

「いいよ。隠して一緒に住むなんてことはしたくないし。結果は良かったんだし。それよりおかえり」

「ただいま」


 城太郎の胸の中に飛び込む。良かった。ここに帰って来れたんだ。


「さあ、家に帰って飯食べよう」

「うん」


 城太郎には都合のいいところだけ話をした。全部言うと赤裸々過ぎるから。母にやたらに念を押されたことも内緒にした。まだそんな関係じゃないんだから、言えない。言えないよお。


 家に着く。やっぱり懐かしいこの感じ。残念だけど、仕方ない。城太郎もこの家が気に入っていたみたいで二人で残念がってみた。けれど、すぐに引越しの話になった。家具の移動がほとんどなかったから今度は実家の家具を移動するか新しく買い換えるかとすっかり新しい家の話で盛り上がりながらご飯を食べた。相変わらず城太郎は料理上手だ。私は気持ち程度にしか作れないのに、城太郎は本格的なものまで作る。きっと料理が好きなんだろう。


 ご飯も終わりお風呂にも入った。今日は疲れていたので湯船に浸かる。出てから城太郎に声をかけて居間でお茶を飲んでいた。部屋に入ったら城太郎におやすみが言えないしね。最後は城太郎の顔を見て寝たい。私よく今まで普通だったな……あ、居間での宿題。お風呂上がりの葵も確かにいたけれど、お茶を飲みに来る城太郎もいたんだ。だから、居間での宿題が必要だったんだ。尚也の電話を避けてまで。


「遥!」

「わ!」


 後ろから突然抱きつかれた。忍び足で来たんだろう。全く気づかなかった。

 くるりと前に城太郎は回り込んできた。そっと重なる唇。ぎゅっと城太郎にしがみつくように城太郎のパジャマを握りしめる。


「なあ。その遥のお母さんには許可もらったから……その、俺の部屋に来る?」

「え、あ、うん」


 そっと離れた城太郎に手を引かれて城太郎の部屋に行く。ドアを開けて中に入る。今日は椅子には座らずに私と一緒にベットに腰掛ける。


「遥、その好きだよ。初めてここにきた時に玄関にいる遥を見たときから」

「え? あの時?」


 私の髪を愛おしげに撫でながら城太郎は言う。


「あの時。男ばっかりだって聞いてたから葵の彼女なのかってスゲー凹んだんだから。遥が名乗り出るまで」

「そう、そうなんだ」

「遥はいつかはわかんないんだろうなあ」

「ああ、うん。いつかな?」

「まあ、いいんだけど。こうして遥が俺のこと好きだって思ってくれてたら」

「うん」


 私はもう一度城太郎に抱きつく。城太郎はそんな私にキスをする。

 そして、手は私の体を撫でている。気持ちいいのと少しこしょばいこの感じ。城太郎の唇が私の首もとを撫で付ける。

 吐息が漏れる。城太郎は私のTシャツをめくり手を入れて来た。


「城太郎、あの、それは……まだあの」

「そうだな。ないし。これ以上したらとまんなくなりそうだし」

「ねえ、今日は城太郎の隣で寝てもいい?」

「あ? ああ。うん」


 城太郎は電気を消して二人で暗闇にいる。城太郎の隣で横になってる。あの時の記憶を塗り替えたかったのかもしれない。暗闇で感じる城太郎の体温。スベスベってわけじゃないけど、パジャマを通して伝わる筋肉の感触。城太郎だあ。


 結局意識し過ぎでうまく寝れなかったのか、二人で早朝になるまで起きていた。朝方ようやく眠る事が出来た。

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