第14話 揺れる想い

 そんなくだらないやり取りの後で、私には悲しい現実が待っていた。なんとびっくり、城太郎君は今まで日常的に家事をこなしていた。城太郎君のお父さんしか登場しないはずで、お母さんは幼い頃に亡くなっていたそう。なので、この中で一番出来る男の城太郎君。そして、出来ない女子の私。って結果になりました。葵君は未知数。そんな出来る男子と出来ない女子の私達は今日は来たばっかりなので葵君がご飯当番。余裕のある城太郎君が次でその次が私って事に。朝食は個人個人で。昼食と晩御飯を交代で作ることに決まった。

 食事の当番が等分に分けれたので、掃除もリビング&キッチンと廊下&玄関&縁側とお風呂&トイレ&洗面所という組み合わせを順番で回すことになった。庭だけは葵君が担当することになった。あとは古い家なので、時々の手入れはできる人がってことで決まった。城太郎君が料理できたので偏りなく配分できた。もちろん、それぞれの部屋の掃除はそれぞれでやることに。


「でも、荷物も少ないし。片付け早いし凄いねー。城太郎君」


 自分の部屋を思い浮かべてもう凄いねしか感想のない私。


「ああ、それは、転勤が多かったから」

「え? お父さんの?」

「そうオヤジしかいないからついて行くしかないだろう? で、その度に身につけた引越しの技術? みたいな」

「引越しの技術?」

「ああ、ただ、物はなるべく少なく。必要最低限しかもたない。これに限るってね」

「あー、それであんなに少ないんだ。でも……それにしては少なくない?」


 私もそう思う!! いくら私の荷物が多めでもあれは少ないんじゃないのかなあ。必要最低限以下だと思える。


「冬物はかさばるからまだ家に置いて来たんだ」

「あー、そうなんだ」


 なるほどそれなら荷物は半減だよね。


「向こうにおいて来たの? 」

「夏休みに帰った時に残りの荷物を詰めようと思って」

「なるほど」


 そうだよね一度に運ぶ必要はないんだし。あのうんざりするダンボールの山を何度も経験した城太郎君ならではの方法だね。


「だけど、親父の転勤がその前に来るととんでもない時期に荷物が来る可能性もあるからな」


 城太郎君はニヤって笑いながら言う。発言のわりには余裕な表情だし。

 ただ、心してないしかも、自分がパックしてない荷物の山が突然送られてくるのは悲劇だよね。この余裕は向こうにも、たいして厄介な荷物はないんだろうなあと思われる。どれだけ引っ越し体験したんだろう。


 そうしてスーパーから帰って来たらすぐに、私と城太郎君は荷物の相手をしにそれぞれの部屋へと、葵君は夕飯作りと別れた。


 なんだか不思議な同居生活。男の子二人との同居。本当に父は知らないのかな?





 夕飯を食べて、その後はそれぞれにお風呂に入る。洗濯カゴは3つあった。色分けされてる。青、緑、ピンクと。緑と青がどちらかはわからないけど、ピンクは間違いなく私だろうな。今度はバスタオルもそちらに入れる。というか入れないと見られては困るんだよね。いろいろと。中身を隠すようにバスタオルでくるむように洗濯カゴの中へ。


 葵君と城太郎君に声をかけて部屋に入る。お風呂は一番最後にしてもらった。まだ慣れない新しい部屋の居心地を追求しちゃった。


 それにしても城太郎君はもう荷物を片付けてしまったようだった。声をかける時に偶然部屋から出てきて部屋がチラッと見えちゃった。なんか、綺麗でサッパリした部屋だった。そうだよね、荷物少ないもんね。「掃除は明日するんだ」って後ろ手に素早くドアを閉められてしまった。なんか見えるの? あ、あの箱の中身? 見ればすぐにわかるものなんだ。そういえば葵君も知ってるようだったし。葵君にわざわざ話したりはしないだろう。あんなに隠すんだから。葵君に見られてばれたから仕方なしってことだよね。……なんで隠さないの? バレないようにしてるのに。なんか矛盾してる!! なんだろう。


 布団を敷いて考える。なんだろう。……なんでこんなに気になるの? 尚也によく似た城太郎君の事。


 チリリリ

 ガサゴソと携帯を探す。アラームを切って、起き上がれないので携帯の画面を何気なく見るとメールがきていた。あ、昨日は余裕なくて見てなかった。寝る時も城太郎君の事ばかり気になっていて……。

 メールの相手は尚也だった。『遥の心が決まるまで連絡しないでおこうと思った。だけど、連絡しないでいるとドンドンと遥の気持ちが離れて行くようで不安になるんだ。だから、一方通行でもメールするな。遥、新しい家はどうだ? 片付け終わったか? 俺も明日家を出るんだ。俺は遥と違って一人だからな。暇だからいつでもメールや電話くれよ。あ、と、これは催促じゃないから。その、返事の催促でもないから。じゃあ、おやすみ』

 ……尚也。私どうしたらいいんだろう。ここに来れば気持ちがすぐにわかるってなんとなく思っていた。こっちに来ればすぐにでも、尚也に返事が返せると思っていたのに。なんで、わからなくなるの。尚也を引っぱたいたのはべつの理由があったからなの?

 考えてもまとまらない自分の気持ちを切り替えて尚也にメールを打つ。昨日は忙しかった。メールには今気づいた。今日は片付け頑張ってね。これくらいのことしか打ち返せなかった。なんと言えばいいのかわからない。尚也の姿が目の前に浮かぶ。笑ってる尚也ばかりだった。私の知っている尚也は笑ってる尚也だ。それ以外は……私に頬を打たれた時の尚也の顔。チューリップを落とした尚也の顔……それぐらいしか知らない。長い付き合いのはずなのに。尚也……。


 庭から水の音が聞こえる。葵君が水やりをしてるんだろう。今度は起き上がり着替えて布団を押し入れにしまう。

 廊下に出てさっと洗面所に向かう。今日は一番乗りかな?

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