金木犀と貴方の残り香
道行く人々は何も考えていないような顔をして駅構内へ入っていく。少年がその様子を黙って眺めていれば、色鮮やかな木の葉が彼の目の前に落ちてきた。橙色や黄色の落ち葉が街路を彩っている。涼風で転がるように飛ばされていく枯葉は、どこか乾いた、それでいて聞き心地の良い音を、冷たい空気に溶け込ませる。
駅の入り口を目の前にして、
風と共に背中を横切るエンジン音へ、柊は眉を顰めつつ、左手首の腕時計を確認した。
「すみません」
文字盤の針の先を辿る前に、意識は声の方へ引っ張られる。人通りの多い中で響いた声が誰に向けられたものなのか、はっきりとは判断出来なかったが、反射的に顔を上げた柊の感覚は正しかったようだ。灰色のスーツを纏った、二十代前半くらいの女性が、柊の顔を覗き込むようにして見ていた。
「ヒイラギさん、ですか?」
「……サイカワさん、というのは貴方でしょうか?」
「ええ、サイカワです」
薄紅を引いた唇が嬉しそうに弧を描く。柊は「待っていました」と無味乾燥な声を漏らして、サイカワという女性の口元に目を向ける。ひたすらに撓んでいる唇に対して、柊が考えていたのは、それが作られた笑みであるのか、それとも自然と浮かべられているものなのだろうか、ということだった。
「それでは、ヒイラギさん。どこか、落ち着いて話が出来る所に行きましょうか。そうですね……少し遠いですが、この通りを真っ直ぐ行った所に静かなカフェがあるんです」
「遠くても別に構いませんよ。案内をお願いします」
「はい。こちらです」
良かった、と独り言ちてから、彼女が人混みを上手く避けながら歩き出す。その後ろに続いて進み、駅前から数十メートル過ぎた頃には、彼女と並んで歩ける程度に人通りがまばらになっていた。
柊がサイカワに会うこととなったのは、彼がネットで見つけた情報に興味を持ったからである。各地を転々として人生相談を行っている若者がいる、という話が、彼の目に止まったのだ。
柊は、自身の思考が人と違って「おかしい」と言われるものであると思っている。それゆえ自身の通う高等学校の教師や、家族などに相談をしていたのだが、理解してもらえることも、そもそもまともに話を聞いてもらえることもなかった。心理カウンセラーや精神病院等に行ったほうが良いのだろうか、と悩んでいた最中に、柊は『移動式人生相談屋』という仕事をしている、若い女性のことを知ったのだ。
それほど歳が離れておらず、けれども子供という歳でもない人間なら、話を聞いてくれるかもしれない。そんな思いで、柊は移動式人生相談屋のサイトを訪れ、そのメールフォームから、話を聞いて欲しいという内容のメッセージを送信した。それから三日程で返信が来て、更に一週間が経過して現在に至る。
すれ違う人間が片手で数えられる程度になったあたりで、ようやくサイカワが、一軒の建物に近付いた。店の手前に聳えている金木犀が、甘い香りで季節を深く匂わせる。建物の外壁の下方は重厚感のある木材が張られているが、上方は硝子張りで、店内をよく窺えた。天井からいくつもぶら下がる電気の傘――その下に取り付けられている電球はエジソン電球のような形状と色味をしており、店内は夕方のような薄暗さだ。入り口の戸を押して中に入ったサイカワを追いかける形で、柊も戸をくぐった。
明るすぎず暗すぎない落ち着いた店内は、弦楽器の音色がゆったりと響いている。勿論、生演奏ではない。スピーカーからクラシックと思われる音楽が流れていた。
店員に、空いている席へどうぞと促され、サイカワと柊は店の一番奥にある席へ着座した。まだ昼前だからか、客は少ないようだ。
お互いコーヒーを注文し、それが席へ運ばれて来るまで、無言のまま音楽に聴き入っていた。小さな音を立ててテーブルに置かれたグラスを手に取ると、柊はアイスコーヒーを一口だけ嚥下する。
「ヒイラギさん、早速ですが、お話を聞かせていただけますか?」
「え、ああ、はい。あの、タメ口で良いですよ。サイカワさん、年上なんですから」
「あ……気を遣ってくれてありがとうございます。えっと、それじゃあ、お言葉に甘えて、普通に話させてもらうね。って、メインはヒイラギくんの話を聞くことなんだけど」
「えっと……上手く言葉で説明出来るかは分からないんですけど、それでも、僕の話を聞いてくれますか?」
「勿論だよ」
ふふ、と漏らされた笑声に、柊は双肩をそっと落とす。重く圧し掛かっていた何かが、彼女の柔和な笑みに落とされたようだ。柊は彼女の目をちらと見てから、テーブルの上に置いた手元へ視線を下げる。
「僕、自分以外の人間が本当に意思を持って存在しているのか、分からなくて、全員機械みたいなものなんじゃないかって思うんです」
「それは、人を信じられないとか、そういうこと?」
「……どう、でしょう。でも、そうですね。ここで僕がこう言ったら、こう返すように設定されているんだろうなとか、こういう風に動くように造られているんだろうなとか。そんなことを考えて、たまに怖くなるんです。もしそうだったら、この世で生きているのは、僕だけじゃないですか。人間のフリをしたアンドロイドみたいな人達が、僕の人生を良い方向にも悪い方向にも、示し合わせるように左右出来るのかもしれない。僕は、自分でこの景色をちゃんと見ているし、自分で意識して声を出したりしているって実感があるから、生きているって感じられるんですけど、他の人はちゃんと目の前を映していて、ちゃんと意思を持っているのか、分からないんです」
柊の両手が、一見、指で遊ぶように落ち着きなく動いていた。けれど彼が、自身の指に爪を立てて何度も引っ掻いていることに気付いたサイカワは、唇を引き結ぶ。
瞳は彼の手を凝視していたが、話はちゃんと聞いていたようで、サイカワは生じた沈黙の中ですぐに呟いた。
「そんな風に思っているのに、私に話をしようと思ってくれたんだね」
「……機械的じゃない人が、いるかもしれないって、思いたかったんです。……あの、せっかく来て頂いたのに、すみません。少し、混乱……というか、動揺、していて。今日は、もう、このくらいにして良いですか」
途切れ途切れの声に、サイカワが戸惑う。それが柊にも伝わってしまったようで彼の顔が俯いた。サイカワは単純に驚いただけで、傷付けるつもりも不安にさせるつもりもなかった為、慌てて「ヒイラギくん」と呼びかけた。
「話してくれてありがとう。少しずつ、もっと話していこう? ヒイラギくんは学生だから……そうだなぁ、また来週、今度はここで待ち合わせようか!」
「……ありがとう、ございます」
「ううん。取り敢えず私は、機械みたいなものじゃなくて、ちゃんと人として見てもらえるように、頑張ってみるね」
柊は、カップに半分以上残っていたアイスコーヒーを一気に飲み干す。立ち上がった彼は学生鞄から財布を取り出して、千円札をテーブルに置いたが、慌てた様子のサイカワに押し返された。
「コーヒーは、私の奢りだから、気にしないで」
「いや、悪いですし……じゃあ、その千円は、話を聞いて頂いたお礼ということで受け取ってくれませんか」
「お金は求めてないから! 私が好きでやっていることだから、本当に、良いんだよ。学生なんだから、お金は大事にして、遊びとかに使って」
頑なに受け取ろうとしないサイカワをちらと見てから、柊は渋々といった様子で、千円札を仕舞い直した。小さな声で「ありがとうございます」と漏らすと、彼はすぐに、店を出て行ってしまった。
(一)
一週間が過ぎたところで、街並みも、秋の香りも変わらない。柊は記憶を頼りに、なんとかカフェに辿り着いて、入店した。
前と同じ席に、前と同じスーツ姿で、サイカワがグラスを傾けている。
「遅れてすみません」
「あ、おはようヒイラギくん。全然遅れてないよ、五分くらい早いよ」
柔らかく笑う彼女から目を逸らして、柊が彼女の正面に腰を下ろす。先週と変わらず落ち着いた店内に、柊はほんの少しの居心地の良さを感じていた。
「調子はどう?」
「調子……ええと、相変わらずですよ。クラスメートとか、みんな、ロボットみたいで」
サイカワが、そっか、という呟きをグラスの中に溶かす。彼女が水を一口飲んでから、グラスをテーブルに置き直したのを確認して、柊が開口した。けれども、声はサイカワのものと丁度重なる。
「そういえば」
「じゃあさ」
互いに、その先を続けなかった。気まずい空気が瞬刻流れて、先に破顔したのはサイカワだ。あはは、と可笑しそうに笑うと、彼女は言った。
「そういえば、なにかな?」
「……あの、どうでも良いことなので、忘れてください」
「どうでも良いことでも良いんだよ、色々話そうよ」
「…………サイカワって、どういう漢字で書くんですか?」
問われて、彼女は気抜けしたような顔を浮かべた。目を丸くしている彼女を一瞥してから、柊が虹彩を左右へ泳がせる。柊の目線を正面に落ち着かせたのは、彼女の笑い声だ。
「えっとね、サイカワのサイは、金木犀のセイの字なんだ。川は普通の川……河川のセンの方だよ」
「そうなんですか。犀川……なんだか、綺麗な字ですね」
「ありがとう。ヒイラギくんは、木へんに冬の柊の、一文字だけ?」
「ええ、そうですよ。それ以外にヒイラギってあります?」
「あ、あるよ。柊と木の二文字で柊木って苗字の人、いるよ」
淡々とした口調で柊に言われて、どこか必死さの漂う早口で紡いだ犀川に、彼がくすりと笑った。可笑しかったのか、ふ、と小さく、跳ねるような吐息が唇の隙間から漏れていた。
先週会った時から今まで、時間にして一時間も共にしてはいないのだろうが、犀川は初めて見た彼の微笑に嬉しさを覚える。
目を上げた彼は犀川の表情にはっとして、笑っていた顔をそれまで通りの無表情に戻した。テーブルの隅の方を見ながら、彼はぶっきらぼうに言う。
「それで、犀川さんは何を言いかけたんです?」
「あぁ……この一週間でね、何か、楽しいこととか嬉しいこととか、面白かったこととか、あったら、話してもらいたいなって。ちょっとしたことでも良いし、柊くんが吐き出したいことがあったら、嫌なことだって話してくれても良いから」
数刻前に見た彼の微笑は見間違えだったのではと思うくらい、その顔色が暗く沈む。誰もいない、何もないテーブルの端を見る双眸が、睨みつける時みたく細められていた。
犀川がそれでも黙って待っていると、少ししてようやく、彼が掠れた低声を吐き捨てた。
「僕、こんなんですから、学校ではもう友人なんていないし、生きているか分からない人達の話は聞かないので、面白いことなんてないです。辛いことは……なんでしょうね。今までなら、沢山ありましたよ」
彼の声を度々震わせているのは、一体なんという感情なのだろうか。彼は、泣き出しそうにも聞こえる鋭さを帯びた声を放ち、目を細めていた。溜息混じりにそこまで喋って、唇を結んでしまった彼を、犀川が見つめる。
「最近のことじゃなくても、良いよ。話してみて」
「……みんな、僕の話を、『へぇ』とか『ふぅん』とか、そういう言葉で片付けるんです。まるで、僕に話しかけられたらそう返すようインプットされているみたいに。気味が悪いくらい、みんな、同じような言葉だけ返して、すぐに自分の話したいことを話し始める。僕に興味なんかないみたいだった。けど、そうですよね。周りの人間なんてみんな生きていない、機械みたいなモノだから、生きている僕にみんな興味なんか抱かない。だから、僕の話だって誰も聞かない」
柊は、唇を震わせていた。自分の手元にあるグラスの水を飲もうとして、グラスの縁に口付けたが、結局それを飲まずに元の位置へ戻した。テーブルの上に出したままの両手で、自分を罰するように、己の指を爪で傷付けていく。
「両親だってそうだ。学校で、みんなが僕のことを冷たい目で見て、さっき言ったみたいな言葉しか返してくれなくて、それが辛くて嫌だって吐き出したのに、返って来たのは同じでした。『ふぅん』って。その一言だけ。僕が知らないうちに何かして、それで友人に嫌われてしまったから、そうとしか返されないのかなって思っていたのに、家族でさえ、そういう言葉しか、返してくれなくて。だから、みんな機械的に返すことしか出来ない、機械みたいなモノだからそうなんだって、そう思えば辛くないんじゃないかって、思ったんです」
「…………」
「なのに、なんで。なんか、苦しくて、自分が……こんな中で一人で生きている僕が、馬鹿みたいで、みんなそういうモノなのに、僕だけ違うモノみたいで。たった一人、僕しか生きていないなら、なら僕ってなんで、一人で生きているんだろうって……――ごめん、なさい。なんの話をしているんでしょうね。なんでもない。なんでもないんです。なにも、なかった」
泣き出しそうに、声の高さが上下する。唇を噛んだ柊は、それ以上なにも言わなかった。
何度も何度も引っ掻かれて赤みを帯びた、柊の左手の人差し指。未だにそこを傷付け続ける彼の右手に、犀川がそっと片手を乗せた。そうして初めて、犀川は気付いた。彼の手が、酷く、震えていることに。
俯いたままこちらを見ない柊へ、犀川は口元を綻ばせた。
「ずっと辛かったんだね。ずっと辛いのを我慢して、一人で毎日、過ごしてきたんだね。偉い。偉いよ。だから今は、頑張らなくて、良いんだよ」
スピーカーから流れているクラシックの中で、しゃくり上げるような吐息が薄れて消える。顔を上げた柊の眼は、水の膜が張られていた。湖面みたいに揺れる瞳が、真っ向から犀川の瞳孔を見据えた。「どうして」。彼が零した、ほぼ息だったその声は、確かにそう言った。彼は乱れる呼吸を落ち着かせてから、繰り返す。
「どうして、貴方は僕の話を聞いてくれるんですか」
「私はね、優しい人の話を聞くのが、好きなの」
そっと、柊の手から、犀川が手を離す。何気なくグラスに触れて、それを揺すった彼女の手元で、溶けていない氷がぶつかり合う。氷は涼しげな音を響かせた。
「楽しい話も、辛い話も、どんな話だって聞いて、その人をちゃんと理解したい。人生相談をする人は、本当の気持ちとか、何かをずっと抱え込んでいて苦しんでいる人が多いと思うから。人の話を聞くことが好きな私が、誰かの為に出来ることを探した時にね、そういう、話したいことを押さえ込んじゃっている人の話を聞きたいって思ったの。そうして、誰かの重荷を軽くしたいって思った」
ゆっくりとした優しい声音が、柊を少しずつ落ち着かせていく。水を一口飲み込んで、犀川はにこりと微笑を湛えた。
「私、学生の時にね、嫌なこととか溜め込んでたことがあったんだ。けど優しい先生に会えて、先生が時間を作ってくれて、吐き出させてくれて……だから、そんな大人になりたいって思ったのが、今こうしているきっかけかな」
「そう、なんですか……」
「人生相談なんて、正直やっている側の自己満足みたいなものかもしれないけど。それでもね、少しでもスッキリしてもらえたら嬉しいなって思うんだ」
柊の濡れた頬が、淡い室内灯でほんのりと煌く。彼は何かを言おうとして口を開けたが、すぐに閉口してしまった。握った拳の甲で目元と頬を拭って、とても小さな「ありがとうございます」を、涙と共に流した。
「柊くんも、話してくれてありがとう。まだ話したいことがあったら、言ってね。私は貴方の話をちゃんと、最後まで聞くから。途中で聞くのをやめたりしないし、心無い言葉で片付けたりしないから。だから、なにかあれば、話を聞かせて」
何度も何度も顔を拭う柊が、ようやく顔を上げたのは、犀川のグラスの中の氷が溶けきってしまった頃だ。顔を上げた彼の瞳はまだ潤んでいて、犀川にはそれが、泥を洗い流された硝子玉みたいに綺麗に見えた。
「もう、大丈夫、です。犀川さんは、ちゃんと、生きてた。機械みたいじゃない。そういう人もいるって、そういうことを知ることが出来て、良かったです」
「うん、私も、そう思ってもらえて良かった」
「周りのみんなが、機械的じゃなくて、人らしく生きているって、すぐにはその当たり前の考えを持てないけれど、今は犀川さんっていう、機械的じゃない人がちゃんといるんだって知れて、本当に、良かった。ありがとうございました。僕だけじゃ、ないんですね。僕以外にも、何かを抱えて、悩んでいる人って、いるんですね」
柊の笑みが引き攣って見えるのは、まだ溢れてしまいそうな涙を堪えているからだろう。赤らんだ瞳を弓なりに細めて、彼は、室内の音で消されてしまいそうなほど、弱々しい音吐を落とした。僕は、一人じゃなかったんですね。コーヒーの香りが漂う空気に、その声はすぐに染み込んでしまう。しかし犀川はちゃんと、聞き逃すことなく耳に留めていた。笑顔の犀川に大きな頷きを返されて、彼が、今度は幼子に戻ったみたいに、けれども控えめに、声を上げて泣き出した。
(二)
昼頃には客も増えてきて、柊はゆっくりと、冷静になっていった。犀川にハンカチを差し出されるも、大丈夫ですと断った彼は、もう涙を流しそうにないくらい、自然な微笑みを携えていた。
犀川に、来週も会うかと問われて、柊は首を左右に振る。
「相談に乗ってくれて、ありがとうございました。もう、大丈夫です。また会ってしまったら、頼りきりになってしまいそうですから。自分で終わりに出来る時に終わらせたくて。すみません、勝手で」
「勝手なんかじゃないよ。柊くんがしたいようにしてね」
「はい。……もしこれからも、周りの人が生きているって感じられなくて怖くなったら、犀川さんみたいな人もちゃんといるんだって、思い出します。誰だって生きているんだって、そう思えるように、いつかはなりたいです」
犀川は、目を瞠っていた。少し、たった少し言葉を交わしただけで、彼はこんなにも、初対面時とは別人のような顔をしている。それが犀川にとって、とても微笑ましく、嬉しいことだった。席を立つ所作さえ、憑き物が落ちたような軽やかさだった。
「それでは、お先に失礼します」
深く頭を下げて、柊はカフェの戸をくぐった。
何気なく空を見上げれば、明るい陽光が、何にも遮られることなく真っ直ぐに両目を照らしてくる。目を細めて視線を下げ、彼は足を進めたが、すぐに立ち止まってしまう。
駅の方角から聞こえる喧騒など耳に入らないくらい、柊は甘い香りだけに意識を注いでいた。金木犀の花の、酔ってしまいそうな甘さに、彼はそっと背を向けた。
――サイカワのサイは、金木犀のセイの字なんだ。
柊の頭の中で、犀川の声が反芻する。彼女の笑った顔が、鮮明に思い浮かぶ。
想起するのは、今だからではない。これからもこの香りを嗅ぐ度に、彼女を思い出してしまいそうだった。
後ろ髪を引かれながらも、柊は小さく息を吐き出して、喧騒の方へ身を進めた。
優しい秋の香りは、涼風の中にじわりと滲んでいった。
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