17

 時間は少しだけ遡る。


「ゆーくん! 今日はわたしと聖誕祭を見て回ろうよ!」

「いや、ユータは私と回るんだ! 仕立屋で新しい服をだな……」

「ユータ! チッカ、行く!」

 聖誕祭の最終日の朝を迎えた悠太は、自室のベッドでリノン達に囲まれていた。

 ご購入特典のモフモフにより、『ほうき星』は他ギルドをぶっちぎる売上を記録した。

 おかげでヴァレンティーネとの勝負は、最終日を待たずして勝利が確定してしまい、また商品生産が追いつかないことから、昨日で営業を終了した。

 文字通り、体を張った悠太は、最後の一日ぐらいゆっくりしようと目論んでいたが、リノン達が黙っているはずもなかった、という次第だ。

「悪いんだけど、今日だけはもう少し寝かせてくれないかな……?」

 疲れが残る悠太は、むにゃむにゃとあくびをかみ殺す。

 寝ぼけるその姿は実に愛らしい。リノンとアメリーは若干前のめりになってゴクリと喉を鳴らし、血走った眼で悠太を見つめる。

 悠太のことを思うなら退くべきであるが、悠太のお願いは全く耳に入っていない様子だ。

「やっ! チッカ、ユータ、出かける! 飯、食べる!」

 そしてチッカはお腹が減っているらしい。

 彼女はかなりの健啖家で、普通に大食い大会で優勝出来そうなほどである。

 その小さな体によく入るものだ、と悠太はここ数日ともにした食事で驚愕した。

「ユータ~!」

 食べに行こう、とぐずり出すチッカに、つい苦笑を浮かべた悠太は小さく頷いた。

「わかったよ。でも、せっかくだからみんなで行こう。二人もそれでいいよね?」

 悠太が振り返るが、リノンとアメリーは不満顔である。

「おいしい、食べる! 幸せ! 行く!」

 チッカは二人へ必死に懇願する。

 食べ物が絡むと、そちらに意識がいくようで、悠太を独占しようという気は起きないらしい。

「……しょうがないな~」

「今年は我慢するか……」

 チッカには店を手伝ってもらったこともあり、リノンとアメリーは強く出られず渋々頷いた。

「食べる! たくさん!」

 チッカは満面の笑みを浮かべ、尻尾をぶんぶん振りながら、ぴょんぴょんと跳ね出した。

 子どもらしいその姿に、見た目的には大して変わらない悠太は、リノン達と顔を見合わせてクスリと笑う。

「あー、そいつはちょっと待ってくれ」

 話は聞かせてもらったと言いたげに、フェルディナンドが部屋の入口に姿を現す。

「ユータ、行くぞ」

「え? …………あ、はい」

 顎をしゃくるフェルディナンドが先日言ったことを思い出し、悠太は頷いた。

「ほえっ!? 目と目で通じ合っちゃって、なんかやらしい!!」

「むっ!? もしや、二人はそういう関係なのか……!?」

 悠太とフェルディナンドを交互に見るリノンの言葉にアメリーが戦慄する。

「ち、ちがいますよ! この前、仕事を手伝ってくれって頼まれたんですよ!」

「何っ!? イッヒゲルト殿、仕事とはどういうことなのですか?」

「ちょいと野暮用でな」

 悠太から向き直るアメリーへ、フェルディナンドは済まなそうな顔になる。

「それって今から行かなきゃダメなの?」

「ああ」

「え~! ダメだよ! ゆーくんはこれからわたし達と食い倒れに出かけるんだよ!」

「食べる! ユータ、一緒!」

 しこたま食べるつもりのリノンにチッカも加勢する。

「わりぃが」

「わっ!?」

 無詠唱で瞬間移動したフェルディナンドは、悠太を脇に抱える。

「こっちも外せねえんだ。お嬢ちゃん達だけで行ってくれ。これはせめてもの詫びだ」

 銀貨の入った袋をアメリーに投げ渡したフェルディナンドは箒を取り出し、悠太とともに窓から飛び立つ。

「わっわっわ~!」

「飛ばすぜ! しっかりつかまってろよ!」

 落ちそうになる悠太を支え、フェルディナンドは箒を繰る。

 遠ざかる自室の窓には、リノン達が両手を挙げて猛然と抗議する様が映るが、内容までは聞き取れなかった。

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