幕間

12

「それじゃ、失礼します」

「うむ、今夜はゆっくりと休むといい」

「はい……」

 黒髪を揺らして会釈した猫の少年が、扉をそっと閉める。

 ジョルジョアンナは「かなり疲れておるな……」と遠ざかる気配を気にかけた。

 すると、袖の中の魔晶石がぶるると震えだす。

 ジョルジョアンナは魔晶石を机の上に置き、右手を翳す。

「なんじゃ、お前さんか……」

 魔晶石の中にある男の姿が浮かび、ジョルジョアンナは嘆息した。

『なんだ、とは冷てえな』

 男は苦笑するが、ジョルジョアンナは取り合わない。

「用件はなんじゃ? のお前さんが、わざわざ連絡をよこすくらいじゃ。よっぽどのことなんじゃろうのう?」 

『計画を実行に移す』

「……それはまだ先の話ではなかったか?」

 冷静に聞き返すが、内心は仰天していた。

『ああ。だが俺も報告を受けた。これ以上、奴らに先手を打たれるのは拙い』

「ふむ。あつらえたようにレムルスが現れたそうじゃからな……」

『…………とにかく、段取りは追って連絡する……いいか? 絶対に逃がすなよ』

 それだけ言うと、男の姿は消え、魔晶石はただの水晶玉に戻った。

「……いよいよ、か……じゃが、本当に上手くいくのか……?」

 普段から、歳を取ると心配性になっていけない、とジョルジョアンナ自身気をつけているが、今回ばかりは慎重にいくべきだろう。

「うーむ……」

 ジョルジョアンナは、背もたれに寄りかかりながら、深く、ゆっくりとため息を吐いた。

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