11
「ん、んぅ……あれ? ここは?」
悠太が次に目を覚ましたのは、馬車の中であった。
「お目覚めになりましたか」
「え? あ、あなたはっ!」
声がした方を見れば、カルミエーロが木箱を椅子代わりにして微笑みかけてくる。
「ど、どうして……? そうだ、みんなはっ!?」
悠太が上体を起こすと、掛けられていた薄紅色の毛布がぺらりと落ちた。
「無事ですよ」
カルミエーロは悠太の周りを指す。
右にリノン、左にはアメリーが横たわる。
そして後ろには、左からソフィ、ヴァレンティーネ、ナターシャの順で川の字になっている。
さらにその向こうは外へと繋がっていて、宵闇の空に星がぽつぽつと輝いているのが見えた。
少しだけ冷たい風が入ってくるが、皆、すやすやと寝息を立てて眠っている。
リノンにいたっては、悠太の腰の辺りをしっかり掴んで離さないでいる。
また、着ぐるみのような猫の手は、コンプレックスをいたく刺激する小さな手に戻っていた。
「ソフィさんから連絡を受けましてね。何分、急なことだったので、このような馬車しか用意できず、申し訳ありません」
「い、いえ…………え? 連絡?」
「
「魔晶石……?」
「おや? 魔導士の助手ともあろう方がご存じないのですか?」
「えっ!? いや、あの……じ、実は、今日が初めての助手だったもので…………」
「……ふむ」
悠太の苦しい言い訳に訝しむカルミエーロであったが、袖から拳大の水晶玉を取り出した。
「これは、遠くにいる魔導士と遣り取りが出来る便利な物です」
なるほど、向こうで言うスマートフォンのような物なのだろう。
「それで……」
何となく状況を把握した悠太に、カルミエーロは眼鏡を押し上げながら切り出す。
「一体、どういう状況だったのですか?」
「そ、それは……」
どうやらソフィは詳しいことをカルミエーロに伝えていないようだ。言い淀んだ悠太は、今一度先ほどの出来事を整理してみた。
レムルスを見たヴァレンティーネが驚いていたことから、本来、レムルスはルードロールには出現しないのだろう。
そのレムルス倒したのはリノン達であるが、可能としたのは黒猫以外に考えられない。
理屈はともかく、正直にカルミエーロに話すべきではない。異世界人であることもそうだが、知られれば、黒猫の不思議な力を欲して争いが起こることもありうる。
「何も覚えていないのですか?」
「……は、はい……」
「そうですか……」
カルミエーロの表情は変わらないが、落胆したことは窺えた。悠太は嘘を吐いたことに少しだけ心苦しさを覚える。
「となると、他の方に聞いても同じなのでしょうね?」
「……多分……」
「分かりました。間もなくミルドフォードへ着くと思いますが、もう少し横になっていても構いませんよ」
「……はい。あ、あの、助けていただいて、ありがとうございました」
「礼にはおよびませんよ。困ったときはお互い様ですから」
カルミエーロから絵になる笑顔を向けられ、悠太は少しだけドキリとしてしまった。
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