片鱗

 落とせない汚れが、日に日に増えていった。

 しかし、ソウはそれでもよかった。自分の人生の終わりに、孤独を感じずに済むと思っていたから。


 けれど、それがどこかおかしいことに気がついたのは、いつからだったか。

 全く同じことを繰り返している気がしていたのだ。

 これと同じ会話を、以前にも話したことがある。

 全く同じ場面を、以前にも見たことがある。


 そう考えながら、クルクルと洗濯槽を回していると、自然とその回転にキレがなくなっていた。


「お前……大丈夫なのか?」

「……」


 その声掛けに、どう答えようかと考えた。

 今考えを巡らせていることを告げて、果たして彼はどのような反応を示すだろうか。


「まただんまりかよ」

「……大丈夫」

「そ、そうなのか、なら――」


 ソウは、「私の代わりは、また来るから」と答えた。

 その言葉の意味を、自分でも正しく理解はできていなかった。


 どうにかして、その言葉の意味を伝えようと、伝えようと――。


「お前……何言ってるんだよ」


 考えを深める前に、行く手を阻むようにシキの声が遮る。

 しかし、ここでその考えをやめてはいけないと思った。


 小鳥が飛んでいた。

 枝に止まって、ソウを心配そうに見つめているのが見えた。

 やがて枝から飛び立って、ソウを羨ましがらせていた。


 羨ましい――?

 なぜ――?


 なぜ、私は洗濯機になったのだろう。

 なぜ、小鳥に憧れているのだろう。


 なぜ――なぜ――なぜ―――――。



 再び、小鳥が戻ってきたのを見たとき、ソウは、思い出した。


 あぁ、そうか――私は、ここから連れ出してくれるのを、待っていたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る