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それでも彼は、その好奇心を振り回すことをやめなかった。
ソウがはぐらかして、「洗濯機で当たり前!」という、何気ない日常を享受しようとする心を跳ね除けて、ソウがかつて別の何者であったかを探ろうとする。
「なぁ、つかぬことを伺うが」
「な、なんですか?」
「お前……元からそこに住んでいるのか?」
「……」
「なぜ黙る?」
「さて、洗濯物の第二弾が始まるみたいですよ!」
そういってはぐらかすのも、もう限界だった。
ある日、自分の複雑な心境とは裏腹に、空はあまりにも澄み切った青色をしていた。この青空は――あの時見た空と同じだ。
ソウは、草原の中でスカートを持ち上げながらクルクルと踊っていたことを思い出してしまった。思い出さないようにすることは、その思い出を意識してしまうことと同じことであって、特定の思いを封じ込めようとすればするほど、鮮明にイメージが浮かんでしまう。
今日みたいに、風が木々や草原を撫でる音だけが聞こえていた。
一緒にいた、ある男の姿が――思い浮かべたいはずの姿は、出てこない。
ソウは、ため息をつこうとした。それよりも早く、隣の部屋の住人が嘆息を漏らしていた。
「はぁ……」
妙な親近感が沸いていた。この隣にいる男も、この空に憂いているのだろうか。
そう思うと、これまで洗濯機として受け入れようとしていた自分を忘れて、ソウは好奇心を振り回していた。
「……どうしたんですか、今日は。元気ないですね」
「そりゃあ元気もなくなるさ」
なんだか、自分の身の上話をしたい気持ちになっていた。
今日は、あの日と同じように傍に誰かがいて、あの日と同じように澄んだ空の下で風にあおられている。
「……今日みたいに澄んだ青空を見ると、なんだか踊りたくなりますねっ」
「はは。まぁいつも踊っているようなものだけどな。グルグル、グルグルと……」
「……まぁ、そう言われると、そうなんですけど、ね」
現実に戻された。
結局私は、小鳥にはなれない。だって、今の自分だってクルクル回っているのだから。回るといっても、もはや回るだけしかできない存在だ。
あの時のように、飛び跳ねたり、指先やつま先を上手に曲げながらは踊れない。
やはり自分は、ただの洗濯機なのだ。
そう思うと、彼はいつも自分の気持ちを鑑みず、無鉄砲に質問を浴びせてくる。
「あのさ、やっぱり、洗濯槽になる前別の何かだったんじゃないの?」
「……秘密です」
だから、ソウはいつもはぐらかしていた。
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