12

 シキは、またいつぞやのように、ぶっきらぼうなセリフをソウに伝えた。

 ソウは、その言葉に無言で返した。


 いつか、自分自身の動かし方すら忘れて、ただ、何も考えずにグルグルと回り続ける日が来るのをシキは待つことにしたのである。

 忘れた方が良い思い出はあるのだ。


 ソウにとって、思い出は自分を支えるための軸であった。

 しかし、シキにとって思い出は、自分を苦しめ、魂を刈り取る死神の鎌の形をしていた。その思い出のために、いったいいくつもの夜を、悪夢が妨げたことか。

 シキは転生前に多くの人間を、葬っていた。

 自分自身の地位を築くため、たいそう浅はかで醜い執念を剣に変えて、葬っていた。その中に、その少女の姉がいたことを、シキは覚えていた。

 記憶の映像として、その者たちの顔や姿を思い描けることはもうないが、自分が行った咎は、常に記憶している。


 だからこそ、シキはソウの思いを受け止めることができずにいた。

 そして、自分なぞが純真な洗濯槽の記憶を受け止め、気持ちを受け止め、その心に溜まった湿気を、いつものように噛み締めながら払い除けてやることなど、できるはずがなかった。

 もちろん、ソウがその少女である可能性は絶対ではないが、それでも、自分の記憶にある少女への罪悪感から、その心を受け止められずにいたのである。


「俺も最近物忘れが激しくてな。……悪い」

「……そう、ですか」


 再び、二人は無言を貫いた。

 それは、ソウが取り外される日まで続いた。


 何日も何日も、洗濯機は回らなかった。

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