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随分と自分勝手な申し出だ、と、シキは考えていた。
自分ばかり自分のことを語って、一方的に、忘れないで欲しいと、そんな我侭を通せというのか。
それ以上に、シキが感じているものがあった。
ソウの語る、草原での光景――それは、自分自身の記憶の中にも存在していた。
風の吹き抜ける草原を、クルクルとスカートを浮かばせながら優雅に踊る少女の姿。少女にせがまれるがままに宮殿を忍んで抜け出しては、馬を駆り、何度もやってきた約束の場所。
ソウの話を聞けば聞くほど、胸が苦しくなった。もはや無いはずの人体の一部が、心臓があったはずの辺りが、キリキリと痛んだ。
シキは、めいいっぱい頭を回転させようと努力した。少し、脱水層がバタバタと動いただけであった。脱水中であれば、超高速で回転できたものを、最近はソウが不具合で洗濯ができず、シキも出番が来ずにいたからでもあるかもしれない。
しかし、シキは、結局何も思いつかなかった。
あの時の、あの時の記憶が――。
草原での少女との会話――少女の目や鼻や髪型、口癖、笑い声――どれも、思い出せなかったのだ。
きっとこれは、転生の余波にほかならない。
ただしかし、シキにとってこれは、思い出さない方が良い記憶だったのかもしれない。
きっと、思い出していれば、洗濯物を噛み締めて、脱水する力の大半を失いそうな気がしていたから。全身の力という力が失われて、ただのガラクタとして、言葉も感情も持たない洗濯機として回り続けるしかなくなってしまうくらい、心を壊してしまっただろうから。
それほどまでに重要で、ソウとの関係性を証明できるはずの記憶が、失われていた。
ただ一つ、その時の――草原での記憶の最後に現れた、少女と話をした最後に交わしたであろう会話のあとに見えた、笑顔だけを残して。
シキは、洗濯物を噛み締める時のように力みながら、ソウの語りへの返答を返すのだった。
「……断る」
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