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私の体は、日々蝕まれつつあります。
カビとか雑菌とかいう、私たちには影響をそこまで及ぼさないものではありますが、人には悪しき影響を与えると信じられている汚染物質に侵されてしまったようなのです。
洗濯槽として回り続けて13年と7ヶ月……私の体をこの洗濯機につなぎとめている根も、もはや私をしっかりと支えるには年を取りすぎたようです。
さて、小言の多い洗濯槽とは、間もなくお別れですよ?
あぁ、死ぬわけではありません。
ちょっとしたリサイクルとかいう、転生してまた新しく作り直される儀式が行われたあとは、私はまた新しく生まれ変わってきますから。
そのとき、今の私は、あの草原での記憶ごと綺麗に消えてしまっているかもしれません。本当は、この記憶が消えてしまうのが恐ろしくて仕方がありません。
涙を洗濯槽が流すなんて、おかしいでしょう?
でも、私自身が、私の体を洗濯機につなぎ止めている根を弱めてしまったのは、私自身が流してしまった涙によるものだと思います。
だから、自業自得ではあるのです。しかし、それでも私は……私自身でいたいのです。どんなに綺麗に生まれ変わっても、私が私でなくなってしまうのなら、そんなことは、私自身にとっては何一ついいことはありません。
あの草原での記憶が――初恋の人との出会いが――あなたとの出会いですら、全てを洗い流して、汚れごと水に流してしまうように、私自身の記憶も、私の役目のように、綺麗に落としてしまうのでしょう。
私は、それが怖くてたまりません。
シキさん。もし、私があなたのことを忘れてしまっていても、何事もなかったように接してくれませんか?
私は、あれだけ無言で、失礼な態度を取っていましたが、でも、あなたにお会いすることができて、とても懐かしい気持ちがしました。
初恋の人――とは、また、どこか違った世界で知っているような空気が、あなたと過ごしてきた、無言の数ヶ月の中で感じることができたのです。
だから、私たちには、無言でいいのです。
どれだけ遠くに気持ちが離れてしまっていても、ずっとそばに感じられる存在感があるだけで、私は、いいのです。
だから、シキさん……。
私のことを、忘れないでくださいね……。
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