6
シキとソウが会話をしなくなってから、1ヶ月が経過した。
夏の日差しに焼かれそうになりながらも、彼らは日々働いていた。
ソウが濯いだ洗濯物を、シキが噛み締めて水を抜く。
悪質で頑固な汚れも、目の前の物干し竿に干された真っ白な洗濯物を見れば、これが彼らのあげる白旗に見えてくる。これが、彼らの成果である。
しかし、かれこれ喧嘩をしてからというもの、その成果を掲げる御旗も制圧完了とまでは言えなくなっていた。
純白というよりは、垢抜けていない使い古した布で一度板間を拭いてきたかのような色だった。
ところどころシミのような物が残っており、洗濯をする女が首を傾げて悩んでいた。
シキは、元々辛抱強い性格ではない。今日この日まで無言を貫けたのは、お互いに声をかけまいと必死に耐えている証拠にほかならないが、先に声をかけたほうが精神的に負けてしまったような気がしてならなかったからだ。
しかし、もはや負けを認めてでも、今日までの仕事の大雑把ぶりを見過ごせなかったのだ。
「お前、いい加減にしろよ。いつまでくよくよしているつもりだ!」
「……」
「洗濯物が汚いままだ。あれではお前がポンコツになったのだと思って、俺ごと捨てられかねない! それはなんだか精神的に不愉快を被る。しっかりと働けよ」
「……」
もし、捨てられでもすれば、自分は処分されスクラップにされ、よくわからない世界で生涯洗濯機として天に召されることになる。それだけは嫌だと考えていた。
それ以上に、この無言を通して、シキには特別な思いも宿っていた。
「……頼むよ。答えてくれよ」
「……」
「お願いだ……今は、俺にとって話し相手はお前しかいない」
「……」
「もし、お前が……故障したと思われて、修理に出されでもしたら、困る」
「……」
「わかった、悪かった。でも、これだけは教えて欲しい。どうしても、聞いておきたいことがあるんだ」
「……?」
心なしか、隣の洗濯槽が揺れた気がした。
少しでも反応を見せてくれたのは、これが初めてだった。
「お前は……元は人間だったんだろ?」
「……」
「お前は、俺のことを無神経な人だと言った。寂しい人だと言った。俺がここで目を覚ます前にいたやつのことを、初恋の人だと言った。お前は、俺が人間であるということを、どこで知ったんだ?」
「……」
無言が続いた。
しかし、この無言は、ただの無言ではなかった。
シキには、それがなんとなく伝わってきた。
自分の問いかけに対して、真剣に向き合ってくれているときに流れる、そういった雰囲気だと思った。
「……あなたが、自分で自分を王族だとおっしゃいましたけど?」
「ふん。皮肉屋め」
「……ふふふっ」
「な、何がおかしい」
ソウは、微笑んでいた。これまでの無言を、お互いに歩み寄ろうとしなかった時間を取り戻すように、その穏やかな笑い声が、全てを元通りにしていた。いや、それ以上に、一つの機械の部屋を共有する性質の異なる二つの存在が、無言ながらも共有してきた時間の中で無意識に蓄えてきたお互いの存在を、言葉にしないながらも認め続けてきた証拠になるのだろう。
「……内緒」
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