雨は勢いよく降っている。

 降り注ぐ、という表現は、言い得て妙である。まるで何者かが、巨大な如雨露を振り回しているかのような言い回しである。

 吹き込む嵐のような風雨は洗濯機をことごとく濡らしていた。

 蓋が空きっぱなしの洗濯機は、普段から水には慣れている。しかし、どことなく、この雨を浴びるには、この雨は冷たすぎるのだった。


 シキは言葉の重みを軽んじていた。

 ソウの言葉の違和感だけは感じながらも、決してその心に踏み込まないよう距離感を持つことはなかった。これは、転生する前もそうであった。

 結果、生まれたのは無言だけだった。


 無言とは、何かを言われることよりもなぜか多くのことを言われている気分になる。だからこそ、相手が口を開くよりも先に、こちらから言葉を投げかけたくなってしまう。シキは、質問をやめなかった。


「なぁ、どうなったんだって聞いているんだけど?」

「……」


 洗濯機に叩きつける雨は、洗濯槽を濡らしていた。これは、置かれた配置の問題でもあるが、この場合、雨に濡れている情景を顕すものは、ほかにもありそうだ。


 結局、雨が止むまでソウが答えることはなかった。


「……無神経な人ですね」

「なんだよ、薮から棒に」

「あなたって人は、人の心に土足で入り込みすぎです。少しは加減を覚えたらどうです?」

「そんなこと言ったって、こっからじゃ顔もわかんないんだからさ!」

「表情じゃなくて、空気を読んでください」

「お前の初恋の人ってのは、気遣いもできて空気も読めたってのか。なるほどね。すまんな、俺はどうせお前の初恋の人ではないし、無神経で空気も読めないダメ人間だ! でもな、こんなモノになる前は立派な王族だったんだ! そうと分かれば今度は俺にひれ伏せ!」

「……」

「そう、それでいいんだ。俺に口答えなどするな! 愚民め! ちょっと気安く声をかけてやったからって図々しい態度をとりやがって!」


 シキは、思いの丈をこれでもかというほど、ソウの心に抉り込んでいった。さきほど聞かせた言葉だけではない。ありったけの暴言を、ソウに叩き込んでいた。これが、シキにとって何を意味するかは、その時彼は理解していなかったのだ。

 

「寂しい人……」


 ソウはそう言うと、ほとんど口をきかなくなった。

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