初恋の人……。

 その言葉に、何か違和感を覚えたが、シキにはそれが何かはわからなかった。

 恋とは、なんだろう。


「どんな人だったんだ?」

「……優しくて、静かな人でした」

「あーそう。代わりに来たのが、このうるさい俺ってわけだ」


 シキは、ぶっきらぼうに答えた。ソウは再び黙った。

 転生前、かつて人間だった頃、シキは汚いことでもなんでもやった。暗殺、謀略。貴族に唆されながらも、それでも自分の野望を叶えるためならと、利用されていることも承知の上で、とにかくなんでもやった。

 そんな自分が、恋などにうつつを抜かすことなど、あり得なかった。

 だからこそ、恋などにうつつを抜かしている、しかも洗濯槽の女に、身勝手な苛立ちをシキは覚えていた。目標を叶えることが第一だった彼にとって、恋などというものは、全くの邪魔者以外の何者でもなかったから。


「で、そいつはどうなったんだ?」


 シキは、そう言ってから感じていた。今思えば、この質問はあまりにも配慮のない聞き方だったと。

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