夕焼け空は、次第に暗雲が立ち込めてきて、その赤く染まった色を混沌に塗り替えていった。灰色の空は、夜の闇がじんわりと染み渡るかのように、上空を黒一色にした。


 ポツリ――。


 一粒の雨が落ちてきた。

 雨粒は次第にその数を増やし、隙間を埋め尽くすようにして一気に落ちてきた。

 雨は、どこを目的地として着地しようとしているのだろう。

 不思議な考えを聞いたことがある。

 目的地に向かって、ただひたすらに進んだとする。A地点から終点へ向かったとして、B地点は丁度中間地点である。そのB地点から、B′地点、要するに、B地点から終点の丁度中間地点にたどり着いていく。その行程を繰り返した場合、永遠に中間地点を目標にして進んでいくとする。限りなく終点に近づくことができるが、中間地点を目標としている以上、一生終点にたどり着くことはなくなる、という考えである。


 雨も、考え方によっては永久にその地上に降り立つことはない。ただ、雨が地上に降り立つことができるのは、その雨粒の全てがこの地面を目指しているからにすぎない。

 だとしたら、と、シキは考えた。俺は、一体何を目標に生きていけばいいのだろうか。ただ、毎日のように洗濯物を噛み締めて、水を抜くことだけをしている生活。こんな生活に、果たして意味はあるのだろうか。

 たどり着く先すら見えていない自分には、終着点どころか中間地点さえわからないままであった。


 この、路頭に迷った脱水槽は、ただ雨の降るのを眺めていた。

 雨はどんどん強くなっていった。遠くで雷が鳴っているのが聞こえた。ゴロゴロと空を光らせているそれを見ながら、考えを巡らせていた。

 隣にいるソウのことを考えていた。

 この洗濯槽の女も、自分と同じようにどこからかやってきたのだろうか。

 だとしたら、なぜ、自分はこの洗濯機というものに詰め込まれた脱水槽なぞに転生し、この女と隣り合わせになったのだろう。そもそも、もともとここには誰もいなかったのだろうか。

 雨足の強くなった空を見上げながら、雨が自分にも降りかかっていることに気がついた。雨はほどよく洗濯機を濡らしていた。


「質問ばかりで申し訳ないが……」

「なんですか?」

「俺がいたところには、以前だれかいたのか?」

「……えぇ。いました。」

「それって……」


少し間があった。ややあって、ソウは答えた。


「私の……初恋の人」

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