第12話

「へぇ、みおみお、昨日はサラダパスタかぁー!」

─昼休み。普段からこの教室では音楽アーティストのaaaとかワンオブことONE OF CLOCKがどこかの誰かのスマートフォンから流れだし、おいここどこの洋服屋だよ。なんて思いながらご飯を食べているのだが、今日はいつも以上に騒がしかった。

「ええ、そう。ヘルシーだし美味しいし。」

「分かるわぁー、体に良いからイイよね!」

流れている音楽なんてそっちのけで、きゃーきゃーわーわーと話している声が聞こえる。

原因の主たちは教室後ろ側、廊下寄りの席をくっつけてお昼を取っている佐倉さんと御嶽小百合みたけさゆり宇良田志乃うらたしのだった。なにやら昨日の夕飯の話をしているらしい。

「さっすが澪。澪の事だし見た目も綺麗に作ったんでしょ」

「そうね、結構綺麗に飾ったの。写真撮っておけば良かったわ」

「えー!撮ってないの!?まじ残念なんだケド~!」

このほわほわ系というか今時感溢れる声の持ち主が御嶽小百合。御嶽さんは誰にでも明るく、ほわほわした雰囲気で接している。対して宇良田志乃は冷静クールというか、男子からも憧れの目を向けられるくらいカッコイイ女子で評判だ。うん、もうひと押し言っておこう。結構カッコイイ。

「澪は何でも作れそうだからなぁ……。女子力の塊ってカンジ」

「そうかしら?ふふ、まぁ……ある程度のものなら作れるわ」

堂々とした顔持ちで宇良田さんに告げる佐倉さん。

…いや作れねぇだろ。すごい良い笑顔で話してますけどあなたカップラーメンしか作れませんよね。嘘ついたら全部自分に返ってくるって知らないの?

というか本当よく言ったな…。

僕は耳に入ってくる声を聞きながら弁当を食べ続ける。

「おいおい、やっぱ佐倉さんって女子力高ぇな。ある程度のものなら作れるってよ。」

「あぁ……そうだね。」

隣で深谷が何か言ってるけど真相を知っている僕からすれば大した話ではなく、適当に返事をしてあしらう。

「なんだよ、お前は食べたくないの?佐倉の手料理とか」

食べたくない……だってあの人が作ったらまじでこの世のモノではないような料理出てきそうだし…。

なんて言えるはずもなく「うーん、機会があれば食べてみたい…かも」と、嘘八百でしかない言葉を彼には預けておいた。

そんなこんなで目を爛々と光らせながら深谷と杉野が女子グループを見守っている中、女子の方ではかなり話が大きくなっているようで。


「すご!なんでも作れるんだ!さすがみおみおだね!」

「い、いえ……なんでもという訳ではないのだけれど…」

「えー!じゃあ今度澪の家行こうよ!美味しいもの食べたい!」

「良いね、私も澪のご飯食べてみたいかな。」

「うぐっ……、ちょ、ちょっと、小百合?まだ何でもは……というか…その、作れないのだけれど…」

「イイってイイって、みおみおの作るのはどうせ美味しいんだから~」

佐倉さんの抵抗虚しく、完全に女子会in佐倉家の予定が立てられ始めていた。

「いや、あの……」

「えーっとぉ、あたしは…今週の日曜日なら行けそう!」

動揺し青ざめる佐倉さんなど見えていないのか、御嶽さんはぐいぐいと話を進める。

「うん、私も日曜日なら大丈夫だよ。」

「え、だから…」

「やったっ!楽しみだね!みおみお!」

「………ええ、そうね…」

遂に御嶽さんに押しきられたらしく、佐倉さんはがっくりと肩を落とし了承してしまっていた。

いや、おかしくない?なんで僕にはあんなに強気なのに押し切られてるの??あの佐倉さんを屈させるとか女子って怖いなぁー…。


「うわ、まじ御嶽たち羨ましすぎだろ……」

「ズルイわぁ、なぁ奈央!」

「…………あぁ…そうだな……。」

料理教えるの僕なんだけど…。いきなりハードル高くないですかね。ていうか佐倉さんこっち見てるんですけどそんな目で見ないでください…。

僕もまた、彼女と同様肩を落とし諦めるのだった。




「で、今日は何を作るの。さっさとしてくれないかしら」

放課後佐倉家。午後5時。

午後7時までは時間があるので僕らは佐倉さんの部屋でくつろいでいた。

「そんな言い方していいのかなぁー教えてあげないよー?」

僕はにやにやとニヤけながら彼女を見やる。

学校が終わると今日の食材を買うためにスーパーに寄ってから帰ってきたのだが、佐倉さんは昼休みに友達に料理を振る舞う約束をしたからか、しきりに何を作るのか聞いてきた。しかも聞き方が相変わらずの上から目線なのでからかいたくなることこの上無い。

「あ、あなた……っ!卑怯よ!!最悪な性格ね!」

「いつも最悪なのは佐倉さんだよね!?」

「ふん、早く教えなさいよ。気になるじゃない。」

佐倉さんは本当に焦っているらしく、ベッドに腰掛けていてもそわそわしているのが分かった。

「んー、この本が読み終わったら教えるよ」

「さっきからそればっかり……!…本、貸すやめるわよ。」

「そうか、じゃあ教えなくてもいいよね。だって読んでいいって言ったから僕が教えるわけだし。」

……ニヤける。

「っ……。この……っ。」

佐倉さんは返す言葉が見当たらないらしい。目を泳がせては何か言おうと口を動かしている。

「…………冗談だよ。パーティーやるんでしょ?だから今日はカプレーゼとロールチキンを作ろうかなと。」

「かぷ……。かぷれーぜ?」

「……簡単に言うとトマトとモッツァレラチーズ、あとバジルを使ったサラダだよ。」

「……ふぅん、なるほど…。」

顎に手をやり頷く佐倉さん。

「少しお洒落な感じにした方が受けが良さそうでしょ?だから、ね。」

「……そ、そう。意外と、考えてるのね…。」

佐倉さんはそう言うと肩にかかった黒髪をくるくると弄る。僕は、まぁ……。とあいずちを打ちながらおざなりになっていた読書を再開することにした。




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