第11話
程なくして麺は茹で上がり、どうにか僕らは夕食を作り終える。とりあえず包丁の使い方は教える事ができたので安心だ。あのままだとこの子いつか自分の指切りそうだし。
途中、彼女が盛り付けをやってみたいと言ってきたので、僕らは一緒に切った野菜とパスタを皿に盛り付けていた。意外にも隣で盛り付けている彼女は少し楽しそうで、盛り付ける野菜を片手に無言のまま自分なりの盛り付け方を考えたりしていた。
「どう?出来た?」
「ふふ、上出来よ。さすが私というところね。」
生ハムを花のように見せたてた盛り付け方をした佐倉さんは、そう言うと満足そうに胸を張る。
「そりゃ良かった。じゃ、食べようか。」
僕らはフォークやコーヒーをテーブルに運んで行き向かい合う椅子に腰掛けると、各々自分の盛り付けたパスタを食べ始めることにした。
「じゃあ、いただきます。」
「………いただきます。」
食事をしている際、無言では気まずいので僕らは色々な話をした。どうやら佐倉さんの親は色々複雑な事情があって、彼女がちょうど中学3年生の後半に差し掛かった頃に共働きになったらしい。最初は夕食の作り置きがあったのだけれど、最近は仕事が忙しいらしくテーブルに夕食で使うためのお金が置いてあるそうだ。
「佐倉さんも夕飯は1人で食べてるんだね。」
「そうね。そういうこと。別に寂しいとは思わないけれど。」
佐倉さんはフォークでクルクルと麺を巻きながら、さっきまでの素直さは何処に行ったのか、いつも通りのしれっとした態度でそう告げる。
「でも流石にカップラーメンばっかり食べてるのはまずいでしょ。」
どうにも放課後のスーパーで彼女が大量のカップラーメンをカゴに入れている所を思い出してしまい、僕は苦笑気味に笑いながら彼女を見やる。……凄い眼力で睨まれた。怖いです…。
「別に良いじゃない。食べたいのだし、第一料理というものを私は作れないのだから。」
「え、栄養素少ないだろうし、肌にも悪いよ… 。」
僕の体なんか簡単に貫いてしまいそうな眼光に見つめられ少しだけ慄きつつも、僕は「肌に悪い」という恐らく女子に有効であろうキーワードを含めた言葉で返す。
「……ふぅん…。」
「……じゃあどうしろと言うのよ。」
佐倉さんは1度巻いていたフォークの手を止めると、自分の頬に触れながら再度巻き始める。また睨まれた。
「…さぁ?」
これに関しては御嶽さんなりお友達に聞いてくれって感じだし、料理本やサイトを見て自分でやるしかないだろう。
「さぁってなによ。まさか私の友達に料理の仕方を聞けと言うのかしら?馬鹿なの?それでは私の女子力の無さがみんなにバレてしまうじゃない。」
「いやでも……みんなお菓子くらいは作れても料理作れるってわけじゃないだろうし、平気でしょ。」
「駄目。却下。」
なんで!?
別にみんなが出来るわけじゃないなら出来なくても良いじゃん…。
「じゃあサイト見ながら自分で研究するとか料理本を買うしかな…」
「めんどくさい。却下。」
せめて最後まで聞け。
…おいおい困った嬢ちゃんだよ佐倉ちゃん女王モード来ちゃったよ。
「なら、諦めて肌悪くする。」
「は?」
「すみませんでした。」
ちょっとしたジョークのつもりだったけれど彼女にはジョークという概念が無いらしい。鬼と見間違えるくらいの勢いで僕を睨んでいる。射殺される。眼力だけで射殺される。何この子怖いよぅ…。
「じゃあ結局どうするんだよ……決まらないじゃん」
「何言ってるのあなた。ほんと馬鹿ね。あるじゃない、最も私に被害が無く且つ探す手間もかからない方法が。」
「はぁ?何言って─」
「あなたが私に教えればいいの。」
……え?
「いやいや、待って。そんなの無理だよ、だって僕が教えるとしたら夜に毎回ここに来る事になる。」
「そんなの誰でも同じじゃない。」
「いや、女の子は女の子同士でやった方が良いんじゃないかなぁと……。」
「だってあなたの親は夜遅くまで帰ってこないのでしょう?仮に私の友達が教えてくれるのだとしたら、その子の親が心配するし迷惑じゃない。」
ぐぅ、確かに僕の親は僕が何していようと心配しないだろうな…。
「じゃあ僕の迷惑になるからその提案を却下する。」
「聞こえない。あなたに拒否権は無い。」
「なんだこれ!独裁者め!こんなのおかしい!」
何ここ絶対王政なの?いつの時代だよ。
「うるさい喚くな頭に響く。良いじゃない、夕食までの暇な時間なら私の家で何をしていても良いわ。私の本を読むことも許可するし、お菓子を食べることも寝ることも許可してあげる。どう?良いわよね、では交渉成立。」
なぁにが交渉だこの女ぁ……。
確かにその条件なら一度家に帰ってまた来るよりかはマシだけど色々駄目でしょ、ほらなんていうか。
まぁそんな僕の抵抗も無力なまま虚しく終わるわけで。
「ちなみに、夕飯は19時を目安に作り始めるから。放課後はその日作る料理の材料とかを買いに行きましょう?異論は認めないわ。」
彼女はそう一方的に告げ、口止めとばかりに学校で頻繁に使っている猫被りな微笑みを僕に向けた。
別に可愛いとは1ミリも思ってない。うん、ぼくぜったいおもってない。
「ん、んん。さて……ご馳走様。……あまりこう言うのは気に食わないのだけれど、その……美味しかったわ。」
「お、おう…。」
妙な咳払いをし、テーブルから立ち上がった佐倉さんはいつの間にか食べ終えていたらしい。空になった皿を手に取ると、そそくさとキッチンに歩いていってしまった。
美味しかった、か…。
「明日から大変だな……」
そう呟く僕は、少し照れたように笑っていたのだと思う。
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