第2話
晩餐会ってきっとこんな感じ。文字でしか知らなかった世界を遂に体験したと天は思った。津田家で催されたディナーには、長崎市長やその夫人、大学の学長や関係者などが招かれた。家では何でも箸で食べる叔父が、ナイフフォークを使いこなし、音も立てずに食事をする光景に天は衝撃を覚えた。できることなら動画でも撮って、海外でバカンスを楽しんでいるであろう両親に送りたかった。
晴治は今をときめく、心理学の先生として、いろいろ講釈を垂れていた。普段は全く飲まないワインを顔色一つ変えず飲みながら、ここのシャトーがどうだとか、この年は葡萄のできが歴史的に素晴らしかったとか、どこにしまいこんでいたのか、天でさえ驚くような博識を披露していた。
「楽しかった?」
自分たち以外のゲストが皆帰った後、天は晴治にそう聞いた。
「いつものことですよ」
「いつもって?」
「僕も社会の一員ですからね。何か提供できるものは提供しないと」
「おとな!」
「ええ。いい大人です」
二人にあてがわれた客室の窓辺に立った晴治は、窓を開け軽く伸びをすると天を肩越しに振り向いた。
「僕は少し酔い覚ましに外に出ますが、一緒にどうですか?」
吹き込む風は涼しく、昼よりも控え目に花の香りを運んでくる。天は頷いて腰かけていたベッドから立ち上がった。
晴治とともに人気のなくなった応接間を抜けて庭に出ると、天はその心地よさに思わず目を細めた。傍らの叔父が、じっと海の方へ視線を向けているのに気付いて天も同じ方を見ると、そこには見覚えのある後ろ姿があった。二人は彼女を驚かせないよう無意識に足音を忍ばせ、声が届くところまでゆっくりと歩み寄った。
「亜里栖さん?」
ベンチに腰掛けた少女は微かに首を巡らせた。長い髪が風に揺れる。眠りについたようなバラたちが、少女の動きとともに一斉に目覚めたかのように香った。
腕に、黒猫を抱いた少女は、先程のディナーで見たのとも、午後の庭で見たのとも違う、どこか空ろな眼差しを晴治と天に向けた。
天は傍らの叔父を見た。その表情を確かめれば、何かわかるかも知れないと思ったからだった。
晴治は静かな顔をしていた。微かに笑みらしきものを浮かべてはいるが、それは夜闇の中で出会った女性に対する礼儀のようなものとして天には感じられた。
「どうされました?夕涼みにしては、少し遅い気がしますが」
はっきりと微笑みながら、晴治は穏やかな声で亜里栖にそう語りかけた。
「月が、綺麗だったから……」
亜里栖は微かな声でそう応じ、二人に背を向けた。
「本当に、今夜は綺麗な月ですね」
晴治は大きな丸い月を見上げ、それからいっそう明るい声で、
「知ってますか?」
少女の背にそう声をかけた。
亜里栖はまた緩慢な動きで首だけを巡らせる。月明かりのせいか、昼間の彼女からは感じられなかった静かな狂気のような美しさを青白く、整った顔に天は見出した。
「昔の人は、I love youを、月が綺麗ですねと訳したそうですよ」
何を言い出すのか、天は居心地の悪さを覚えながらも傍らの変人を見守った。何かを企んでいる、あるいは一人でわくわくしている時の、仏像のような微笑みではない。晴治は他意のない、優しいだけの笑みをじっと亜里栖に向けていた。
天が止める間もなく、晴治は歩き出し、亜里栖の足元に膝をついた。少女は真っ直ぐに晴治を見つめる。
「貴方は、お伽の国からやってきたんですか?」
「どういう意味?」
幼さを残した高く震える声はそのままに、その口調は先程までの亜里栖とは違っている。天はそう気付き、黙って二人を見守ることにした。
「貴方は、どこか浮世離れしています。どこか違う世界で生きているような、そんな気が、僕にはします」
「……」
亜里栖は黙って、黒猫の背に顔を埋める。幼い子どものようなその仕草に、晴治は少しだけ目を細めた。
「お嬢様!」
その時、庭に面した厨房の扉が開いた。
中から現れたのは、矢崎という若い執事だった。
「こんなお時間に外に出てはいけません」
亜里栖の手を引いてベンチから立ち上がらせながら、矢崎は
「ご迷惑をおかけして申し訳ございません」
そう言って晴治に頭を下げた。
「いえいえ。迷惑だなんてとんでもない。こんなに月が綺麗なんです。外に出てみたくなる気持ちもよく理解できます」
「……」
矢崎はもう一度晴治に頭を下げると、さぁと亜里栖の手を引いて屋敷の中に戻っていった。
「僕らもちょっと座りませんか?」
「え、ああ……」
二人の姿が見えなくなると、晴治は何事もなかったかのように亜里栖が座っていたベンチに腰をかけ、傍らに天を招いた。
「何か、変じゃなかった?」
天がおずおずと口を開くと、何がです?と晴治はのんびり甥の顔を見た。
「いや、何がって、明らかにさっきまでと違ったじゃん、亜里栖さん。飲んでなかったよね?」
天の言葉に、晴治は、飲んでなかったですよと呑気に応じた。
「君には、亜里栖さんがさっきとは違うように見えた、ということですね?」
「叔父さんには、そう見えなかったってこと?」
そうですねぇ、ともったいつけるように晴治は月を見上げる。
「いやぁ、今夜は月が本当に綺麗ですね」
何の脈絡もなさそうにそう呟いて、晴治はぱっと天の顔を見た。
「今のは別に、I Love Youのつもりではないですよ?」
「わかってるし。この際、もうそれはどうでもいいって」
自分の目にも明らかにいつもとは様子が違って見えた亜里栖。洞察力の塊のような叔父にそれが感じ取れなかったわけがない。どうして、はぐらかすようなことを言うのだろう。そこまで考え、天ははっとした。
「亜里栖さんて、もしかして、病気なの?」
「病気?やや痩せ型ではありますが健康そうじゃないですか?」
「だからそうじゃなくて!」
ヒートアップしかけた天を、まぁまぁといなして晴治は軽いため息をついた。
「君たちは何でもかんでも病気と言いますが、そもそも何が正常で何が異常かということについて一度でも考えたことはありますか?」
「それは、別に、ない、けど……」
そうでしょ、と言った晴治は天の知る優しい叔父さんの顔に戻っていた。
「僕も、君も、たぶん世界中の全ての人が、どこかしら、異常なんです。逆に、異常が多数派になれば、正常こそ異常になります」
わかりますか、と問われ、天は曖昧に頷く。
「まぁ、何となく」
「症状に名前をつければ病名になります。病名を与えられると人間は何故か安心する。不思議ですけどね。自分にも他人にも得体の知れない物の方が、不治の病よりずっと怖いんでしょう」
何の話だっけ、天はそう言いかけて止めた。
「人には、いろいろな事情があるんです」
「症状、じゃなくて?」
「まぁ、症状という場合が正しい時もありますけどね」
「よくわかんない」
「今はいいんですよ、それで」
まぁ、と晴治は再び月を見上げた。
「月も綺麗なことですし。東京じゃ、なかなか見られないですね。遮る物もないし、光も少ないし、本当に綺麗です……」
天も変わり者の叔父に倣って夜の中に煌々と輝く月を見上げる。
満月に近い、丸い大きな月だった。風が夜を吹きわたり、バラの臭いが暗い庭に満ちる。
海が見える。街の光の向こうに、闇と既に区別のつかない海が見える。転々と船の明かりを映す以外、それは海という存在ではなく、ただそこに漂う夜の一部のようでもあった。
天くん、と晴治が穏やかな声を発した。
傍らに顔を向けた天の目に映ったのは、叔父の静かな横顔だった。
「天くんには、ガールフレンドはいるんですか?」
「何?急に?っていうか、ガールフレンドって久々に聞いた」
甥の顔を見て、晴治はにやっと笑った。
「亜里栖さんのこと、ずいぶん熱心に見ていたような気がしたので。美人さんですし、いい趣味だと僕も思いますよ。でも、まぁ、天くん、奥手そうですからね」
「俺まだコーコーセイだけど、叔父さんの方が問題じゃん?いい年なんだし。母さんもちょっと心配してたよ」
あんな変わり者で大丈夫かしら。最後の言葉は口に出さず、天は晴治を見返した。
「僕は大丈夫です。一人で生きていけますし」
「そりゃ、そうだと思うけどさ。叔父さんこそガールフレンドいないの?」
「学食で二人で昼食を取るような相手なら何人かいますが」
「よくわかんないけど、何となくその人たち、可哀そうな気がする」
どうしてですか、と首を傾げた叔父に、この人は間違いなく晩婚だと天は思った。
「叔父さんって、研究対象っていう以外で、人に興味持ったり、好きになったりしなさそうだよね」
聞くだけ無駄だったと天が軽くため息をつくと、晴治はそんなこともないですよ、と少しだけ胸を張った。
「僕にも、姉さんが好きな時期がありました」
「え」
ゆっくりと甥の目を見て、驚きましたか、と晴治はきいた。
「そりゃ驚くよ」
天の言葉に晴治は少しだけ笑ってまた暗い海へ目を向ける。
「父と母はお互い再婚ですから。僕と姉さんには生物学的には何の繋がりもありません」
「……」
叔父は、何を言おうとしているのだろう。闇しか映さない瞳には、天が読み取れるどんな感情も見当たらなかった。
「例えば、姉さんと僕が、普通の生活の中で出会ってお互いを好きになっていたら?まぁ、僕は義兄さんとは全くタイプが違いますから、姉さんの好みではないとわかってますけど」
「叔父さんでも、悩んだりするの?」
「しますよ」
晴治は穏やかな笑みを湛えて天に向き直る。風が吹いて、バラの香りが濃くなった。
「僕も人間です。当時は、まだ若かったですしね。十歳以上年も離れてますから、恋というよりただの憧れみたいなものだったと、今になって思いますが」
「すげぇ、意外」
「そうですか?」
「うん。だって全然そんな感じしなかったし」
天の言葉に晴治はふふっと笑った。
「君より長く生きてますからね。それに、人の心の勉強もたくさんしてきましたから」
胸に湧き上がるこの感情は、何なのだろう。天は居心地の悪さを覚え、ベンチの上で膝を抱えると、顔を街の方へ向けた。
「母さんの、どこが好きだった?」
「全部」
「え?てか、答えるのはやっ」
驚いた天に晴治は満足そうに笑う。
「姉さん、美人ですしね」
「叔父さん、そここだわるよね。顔なの?」
「まぁ、いきなり心の美醜が見えるわけじゃないですから。とりあえず僕らの目から網膜、視神経を通って脳に送られてくるのは、見た目の印象でしょう」
そうだけど、とどこか不満げな天。晴治は天と同じようにベンチの上で膝を抱え、街なのか海なのか夜なのか、天にはどこなのかわからない場所に視線を向けた。
「母さんは、少し神経質だと思いませんか?」
「母さんって、ばぁちゃんのこと?」
ええ、と甥っこを見ずに晴治は頷く。
「そう?俺には優しいけど」
「そうですか。なら、よかった」
「ばぁちゃんが神経質なのと、母さんが美人なのって何か関係あんの?」
「そこじゃないですよ」
「え?」
晴治は天の目を見て、雑ですね、と軽いため息をついた。
「質問は悪くないんですよ、いつも。だけど、前後の繋げ方が雑なんです、天くんは。繋げるべきはそこじゃない」
学者というより、教育者のような面持ちで、晴治は天に何かを教えようとする時がある。何を言いたいのか、天にはよくわからないが、難しい話をされるのはこれが初めてではなかった。
「いいですか、物事には、原因と結果があるんです。風が吹けば桶屋が儲かるって諺、聞いたことありますか?」
「あるけど、それこそ全然関係ないじゃん」
「いいえ。この話はちゃんと繋がってるんです。一足飛びに風のせいで桶が売れるようになるわけではなくて、諺ができた当時、恐らく江戸時代ぐらいじゃないかと僕は思うんですが、当時はですね、現代のように道が舗装されていないわけですよ。だから風が吹くと砂とか埃が舞い上がるわけです。さらに当時はまだ眼鏡やサングラスなども一般にはないわけですから」
「その話、長くなる?」
「そうですね。後でググって下さい」
「わかりました」
二人は無言で顔を見合わせた。
「何の、話でしたっけ?」
「ばぁちゃんが神経質だったって話」
「ああ、そう、それですね」
晴治は何度か頷くと天から街の方へ顔を向けた。
「姉さんは、何というか、まぁ、息子である天くんもわかっていると思いますが、天真爛漫な人ですから。一緒にいると、元気をもらえるというか、存在そのものが、眩しいというか、太陽みたいというか。名前も陽子さんだけに」
「へぇ。そんな風に思ってたんだ」
「どういう意味です?」
繊細な心なんて持ち合わせていないと思っていた変人にも、多少のデリカシーはあるらしい。天は少しにやつきながら、叔父を見返した。
「母さんと叔父さんって、全然種類の違う人間じゃん?叔父さんの方が母さんにあんまり関心ないのかなって思ってた。母さんよくしゃべるから、叔父さんにもしょっちゅう電話したりしてるけど、本当は叔父さん迷惑なんじゃないかなって」
「そんなことないですよ。姉さんの取りとめのない長話を聞くのは面白いです。昔と全然変わってないなぁって感じますしね。それに、姉さんは誰にでも優しいでしょ?天くんにも、母さんにも、知らない人にも。僕はそういうところ、すごく尊敬してますよ」
へぇと呟いて、だったら、と天は口を開いた。躊躇いより、好奇心が勝っていた。
「今でも好きなんじゃないの?」
「家族としてはね。今でもすごく好きですよ」
「本当に家族としてだけ?」
「ええ。今は」
「じゃあ、母さんと父さんが結婚した時どう思った?」
天の予想に反して、晴治は穏やかな表情を取り戻していた。夜風が庭園を吹き抜け、微かに晴治の声が震えた。
「嬉しかったに決まってるでしょう。義兄さんはとてもいい人だし、何より姉さんをとても愛しています。僕の面倒も、姉さんはすごくよく見てくれたんですよ。だからあの人が、僕の傍からいなくなるんだとしても、それで幸せになってくれるなら、やっぱり嬉しかったですね」
そんなものか、と天は黙って叔父の目を見ていた。強がっているようには見えない。寂しそうにも、やはり見えなかった。
「天くんが生まれた時も、本当に嬉しかったですよ」
「俺?」
「ええ。天くんと僕にも血の繋がりはないですけど、初めて病室で君を抱かせてもらった時、すごく幸せな気持ちになったのを覚えています。まだ、僕は今の君と同じくらいの年でしたけど、自分に弟ができたような、息子ができたような、そんな気持ちでした」
そうなんだ、と照れくさそうに呟いた甥っ子の頭に晴治は手のひらを乗せた。
「君は、とても祝福されて生まれてきたんです。天くんが生まれた時、姉さんも、義兄さんも、父さんも母さんも僕も、本当に嬉しかった。この世に、こんなに美しくて愛らしい存在なんて他にはいないって、皆そう思ったんです。だから、君は、いつでも自分に誇りを持って、自分を大事に生きて下さい。天、って、立派な名前ももらったんですから」
「何、急に?」
嫌そうに自分の手を押し返してきた甥っ子の頭を晴治は勢いよく両手でかき混ぜ、
「照れなくていいんですよ」
「ちょっと!止めてよ、ガキじゃないんだから」
むっとした天からぱっと両手を離した。
「本当にそうですかねぇ」
見慣れたにやにやを前に、天は乱れた髪を片手で撫でつけながら、はっと短くため息をつく。
「こんなん、どっちがガキかわかんないじゃん」
晴治はふと海の方へ目をやった。天くん、と静かな声で呼ぶ。天はその声に叔父の横顔を見た。
「僕は、とても幸せです。それに、とても、恵まれています。だからね、お節介になるのだとしても、僕ができることで誰かの役に立てるなら、何でもしたいんです」
「何?急に?」
驚いたように自分を凝視する天に、晴治は優しく笑った。
「いえ、これでも、たまにはそんなことを思ったりするんです、というただのアピールです」
「意味わかんないよ」
またおかしなことを言い出したと天はため息をついた。叔父は妙に満足げな様子でベンチから立ち上がり、戻りましょうかと甥っ子に声をかけた。
部屋に戻ると、晴治は備え付けの机に真っ直ぐに向かい、迷わず引き出しを開けた。
「どうしたの?」
また何か妙なことを始めたと天は叔父の背中を眺めた。晴治は天に背中を向けたまま何かを取り出し、実はと徐に振り向いた。
「昼間、不思議な物を見つけたんです」
「この部屋で?」
ええ、晴治は頷き机の上に古びた紙を広げた。天は叔父の肩越しにそれを覗き込み首を傾げる。
「これって、家系図?」
「そうです。でも、おかしいと思いませんか?」
そう言った叔父の手元を天は注意深く見つめる。
「そもそも普段使われていないこの部屋の机の中に入っていること自体不自然ですしね。それに、亜里栖さんは、自分たちは母と叔父、つまりお母様の弟さんと暮らしていた、と言っていました」
「それが?」
眉根を寄せた天を一瞬見つめ、晴治は家系図に書かれた亜里栖の名前を指差し、そのまま上に動かした。
「これでは、亜里栖さんは、秋宗さんの娘、ということになってしまいます」
「あ、そっか。千秋さんの下に名前がないとおかしいってこと?」
「そういうことです。それに、ネーミングルールが、亜里栖さんから変わってしまっています」
「ネーミングルールって」
言いかけ、目で家系図をさかのぼっていた天が、わかったと顔を上げて晴治を見た。晴治は黙って頷いた。
「この家系図は、亜里栖さんに直接つながる親族しか出てこないんです。これを見る限り、親の名前の下の一字を後継ぎにつけていたんでしょう。これだけでは、兄弟間でどういうネーミングルールになっていたかわかりませんが……千秋さんと秋宗さん姉弟の名前も繋がっていますから、きっと上の子の名前から下の子の名前が決まるわけです」
そこまで一気に話すと、晴治は確かに、と軽く唸った。
「これであれば、少なくとも家系図上は、どんな風にも名前が繋がるわけです」
「どういうこと?」
「長子が家を継げば問題ありません。ただ、もし長子が早死にしたり、子どもを残せなかった場合でも、名前だけ家系図に残せば」
「他の兄弟が家を継いだとしても、家系図的には、途切れてないことになる?」
「そういうことです。何故そんな家系図を残す必要があったのか、妙だとは思いますが」
確かに、と頷きながら、天は家系図を何となく声に出して読み上げた。
「正三さん、三和さん、和寛さん、寛千さん、千秋さん、秋宗さん……」
「次が亜里栖さんです」
本来なら、と晴治は天を見た。
「そういうの、止めたんじゃないの?」
「勿論その可能性もありますが」
「何か気になるんだ?」
叔父はまた深遠な仏像顔になりつつあった。そんな顔をする時は決まって、興味の対象に心を持っていかれているのだと天は知っていた。
「秋宗さんの下に名前が書かれていることと合わせて考えると、何か別の事情があるような気がするんです」
「何か面白そうとか思ってるの?」
滅相もない、晴治は天の言葉に何の企みもなさそうな穏やかな笑みを返す。
「人様の家の事情に立ち入るのはよくないと姉さんから口を酸っぱくして言われてますから」
大丈夫です、と何に対してか付け加え、晴治は仏像のような表情のまま頷いた。
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