第5話 少年の話 1-5 バレー部の加藤さん

 バレー部の加藤さんのことは、バレー部の次期部長候補で二年でレギュラーの優秀生という情報しか知らない。それと勉強が少し苦手そうだということくらいか。


 やけに俺たちのグループに首を突っ込んでくることも。ただ、それだけだ。


 大体、覚せい剤と麻薬とハーブの違いすらわからない俺に薬売りの容貌なんて知るはずがない、あからさまな容姿なのだろうか? しかし、日本じゃ覚せい剤は違法なはずだし、警察に気づかれないような容姿服装をしているはずだろう。 

 

 そもそも、加藤さんはなぜ、伊藤が受け取ったものを覚せい剤だとわかったのか?



「隼斗にお姉さんなんていたんだね」

 加藤さんは驚いていた。放課後に、二人は教室からすぐの廊下で話していた。


「加藤さん、知らなかったのか」


 隼斗のお姉さんは二十二歳の大学生で、一人旅をしながらぷらぷらと生活をしているのだという。


「もうねーちゃんとは二年間は話してないけど」


 大学は大阪の大学だし、隼斗とお姉さんは特別仲が良いわけでもなかったので、出て行ってからそれきりなのだそうだ。俺も実際に会ったのはたった一度きりだし。


「へえ、家族なのに寂しいね」

「寂しいとも思わねえよ。ねーちゃんは自由に生きるのが似合う人だから、いいんだ」


 隼斗は壁にもたれて、頭をかいた。


「加藤さんは何人家族なんだ?」

 聞くとううん、と一度腕を組み、


「三人家族で一人娘よ。だから兄妹がいるのが羨ましいんだよね、ずっと一人だったから」


 意外だった。加藤さんのことは根拠もなく長女だと信じ込んでいた。


「そんなにいいものでもねえよ、ねーちゃんいても寂しいもんは寂しいし、女だし趣味も合わねえから」

「それでもいいじゃん。そんなにいらないなら私に分けてほしいくらいだわ」

「ああ、いいぞ。俺の姉でいいならやりたいくらいだよ」


 三人でくすくすと笑った。


 案外、言わないだけで考えていることや悩んでいることがあるのかもしれない。でも、信司は別だ。あいつは、そうではないと、わかっている、ずっと付き合ってきたのだから。



 俺は奈々子さんの「またね」を思い出しながら、あの空き家へ向かった。いつだか、山で誰かと作った秘密基地を連想した。あのとき、胸が躍ったことを思い出す。


 生い茂った雑草を踏みながら、扉を二度叩く。また、奈々子さんは煙草を吸っているのだろうか、と考えながら、わくわくしていたが、


「お前誰だよ」


 登場したのは赤い髪の男だった。鋭い目つきで、まじまじと観察された俺はメデューサと目があった気持ちになった。その長身の男は俺を見下ろして


「何か用があんのか?」


 言葉が出なくて口ごもっていると男の後ろに奈々子さんが現れた


「蓮君、今日も来てくれて嬉しいよ」

「知り合いなんすか」


 男の耳に空いた穴は十円玉ほどの大きさで、穴にぶら下がった輪っかのピアスはぶらぶらと揺れていた。


「伊藤君のクラスメイトなんだってさ。昨日知り合ったんだ」

「じゃあ、さくらちゃんのクラスメイトってことすか」


「さくらちゃん?」


 聞いたことのあるような名前だったが、誰の名前かわからずに聞き返した。


「加藤さくら、知らないんか? 俺の彼女なんだよ」


 赤髪の男は似合わない口調で、口にした言葉にも信じられなくて、頭がくらくらとした。

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