第15話「月に祈る」

司へ


突然転校になって驚かせてごめんね。


浜辺で話したように、卒業してから引っ越す予定だったんだけど、おばあちゃんの具合が思ってた以上に悪くて…。来年の春までもたないかもって…。


だから何とか夏休みの間に編入できる高校探して2学期からこっちに住むことにしたの。


おばあちゃん大好きだったから…。


花火大会の日に話そうと思ってたけど、あんな風になって司を傷つけてごめんね。


なんか謝ってばっかりだけど、ついでにもう一つ…


司が引っ越してきたばかりの頃、きっと好きでもないスイミングスクールに3年間も私の為に通ってくれたんだよね、ごめんね。

なのに私はやめちゃって…。

いつか謝ろうと思ってたんだけど、最後になっちゃった。


でも、もしまた私が溺れたら、司が助けてくれるんだと思って、嬉しかったよ。


小学生の頃は、よく月や星を一緒に見ながらお話したね。何か星空を見ながらだと素直に話せて不思議だった。こないだの浜辺でもそうだったね。


でも中学生になると、全然話さなくなっちゃって寂しかったな…。


高校で野球部のマネージャーになったのは、本当は「浅倉南」になりたかったわけじゃなくて、司と子供の頃みたいに仲良くしたかったからだよ。あと、私なりにスイミングの3年を返したかったから…。


実は「浅倉南」のアニメはよく知らないんだよね。へへへ。


司との思い出で一番嬉しかったことは、やっぱりこないだ浜辺で私のことずっと好きだったって言ってくれたこと…。


中学くらいから私のこと避けてる感じだったから、もしかしたら嫌われてるんじゃないかと思ってた。


だから、本当に嬉しかった。


何かとりとめなくなっちゃったけど、本当に言いたいのは一つだけ。


私も司のことがずっと好きだったよ!


初めて会った時に一緒に謝ってくれた時からずっと…。


これから離ればなれになるけど、同じ月と星を見てると思って、名古屋で元気に頑張るね。


司も受験勉強頑張ってね。

司はやればできるんだから。


それじゃあ元気でね。


さよなら。



真美



*****


この真美からの手紙を読んだ後、すぐにでも真美に連絡を取りたかったが、手紙には住所も電話番号も書いてなかった。


(何で十年も両想いでさよならなんだよ!何で連絡先も教えてくれないんだよ!)


俺は激しいジレンマを感じた。


次の瞬間、俺は家を飛び出し、学校へ向かって全力で自転車をこぎ始めていた。


*****


夕方の職員室で俺は真美の担任の男の先生を見つけて、真美の転居先の電話番号と住所を聞こうとした。


その担任の男性教諭は笑いながら、


「君で今日5人目だよ。」


と言って教えてくれなかった。


確かにこの頃から「ストーカー」という言葉がニュースや新聞を賑わかしていたから、むやみに教えないのは当然だろう。


ましてこの男性教諭に「俺と真美は十年間両想いだったんです」と言っても、それこそ本物のストーカーにされてしまうだろう。


俺は別の方法を考えて、出直すことにした。


夕日に照らされた帰り道、駅前通りのできたばかりのコンビニに、出せるかわからない手紙の封筒と便箋を買いに行った。


コンビニ手前のカラオケ店の前を通った時、店から俺の高校のセーラー服を着た女生徒が数人出てきた。


その中の1人に真美の親友の「アッコ」と呼ばれていた石川亜希子という子もいた。


アッコも小学生から一緒で、その頃から俺はアッコをお節介おばさんみたいな感じで見ていた。


当時、小学校の校内では真美とあまり話さないようにして、真美への淡い恋心を周りに悟られないようにしてたつもりだったが、アッコだけは俺に「真美のこと好きなんでしょ」と図星を言って俺を困らせた。


俺はアッコなら真美の連絡先を知ってると思い、自転車を停めて駆け寄った。

近づいて目が合うと、アッコの目は敵意むき出しの目に変わった。


俺は構わずに聞いた。


「石川、真美の引っ越し先の電話番号知ってる?」


「・・知ってるけど、佐竹には教えないよ。」


「何でだよ。」


「自分の胸に聞いてみなよ。どうせこれから圭子の家に行くんでしょ。」


確かに圭子の家はそこからちょっと行った路地にある。


(何で石川から圭子の名前が出てくるんだ?)


「何だよ、圭子って。」


俺はしらばっくれて聞いた。


「私、見たよ。花火大会の夜、佐竹が圭子の家から出てくるの。」


(・・そうか、真美は知ってたんだ)


謎はすべて解けた・・


連絡先が書いてないことも、「さよなら」の理由も・・


そして俺にはもう真美を追いかける資格がとっくにないことを今更ながら知った。


*****


俺の脳ミソは思考停止したが、アッコの機関銃のような責めは続いた。


「何で真美をおいて圭子の家に行ったの!」


「何で真美のところへ戻らなかったの!」


花火大会の次の日、真美と仲のいい友達が集まって真美の送別会をやり、そこで元気のない真美をアッコは持ち前のお節介・・もとい、優しさで執拗に問いただして大体を聞いたらしい。


俺はアッコに責め立てられて何も言えなかった。


いや、むしろ俺は真美の代わりに責めてくれることがありがたかった。


何も言わない俺に愛想をつかしてアッコ達はほどなくして去った。


気付くと、さっきまでの夕日はことわざ通りにつるべの如く落ちて、半分に欠けた月が宵の空に佇んでいた。


真美も見ているだろうか。


今の俺のように半分もがれた今宵の月を・・


俺は「さよなら」は永遠の別れの言葉じゃないことを月に祈った・・




挿入歌

「セーラー服と機関銃」薬師丸ひろ子


「月に祈る」GLAY


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