17話 一息つくことにしましょうか
「……あれっ」
ブランドたちが見えなくなった後で、不意にパトラが妙な声を上げた。すっごく不安そうな顔で彼女が見ているのは、私?
「レイクーリアお姉様、お怪我されたんですか?」
「ちょっとかすっただけですわよ。アルセイム様のおかげで、もう痕も残っていませんし」
ああ、そう言えばアルセイム様に癒やしていただいたってさっき言ったわね。ほら、と傷があった場所を見せると、パトラはほうとちょっと大げさな感じで息を吐いた。
「よかったあ。お姉様傷物にされたら、わたし怒っちゃいますよ」
「もしかして、俺にか」
「もちろんです」
え、そこなの? というか、本気でアルセイム様に怒るつもりなのかしら。
というか、既にある意味傷物にはなってそれで治ったんですけれど。でもパトラ、その怒りをアルセイム様に向ける理由にはならなくてよ。それに。
「それでアルセイム様を傷物にしたら、私が許しませんからね?」
「うわあ」
「ああ、すまんすまん。父親の俺からもよーく言っておくから」
軽く微笑んで牽制をかけると、さすがのパトラも引いてくれた。彼女はまだ幼いから、私との初対面のときと同じように何をしでかしてくるか分からないものね。本当に、クロード様共々気を付けていただきたいものだわ。
「と、アルセイム。お客人どもはブランドに任せるが、お前さんどうするよ」
「はい。街の様子について報告書をまとめたいので、そちらの作業に入ろうかと」
「そっか」
クロード様の質問に、アルセイム様が平然とお答えになる。そうなのよねえ、現在の公爵家当主はクロード様だから、街を見学に出たアルセイム様はそれについて報告をしなくちゃならないのよね。
……私も、書類を作成したほうが良いのかしら。
「ああ、レイクーリアは構わねえよ。書類作りはアルセイムにやらせて、慣れさせたほうがいいからな」
「よろしいんですか?」
「それより、パトラとお茶でも飲んでやってくれねえかな。何しろ男所帯で、そういうのあんまりねえから」
そう、クロード様に言われてふとパトラに視線を移す。あら、何だかわくわくしている、期待の眼差しね。
これは、お断りするわけには行かないか。こちらとしても、お茶の時間は取りたかったところだし。
「承知いたしました。ナジャ、お茶とお菓子の準備をしておいてくれるかしら」
「お任せくださいませー。それじゃ、お先に失礼します」
ナジャにお願いすると、すぐにペコリと頭を下げてこの場を立ち去った。これで、私が部屋に戻ると既に準備が整っていたりするからあなどれないのよね。お茶を淹れるためのお湯だって、すぐに沸くわけではないのに……普通は、ね。
「良いんですか? お姉様」
「たまには良いでしょう? 公爵閣下もお望みですし、私も一度あなたとのんびりお話をしてみたかったから」
「はあい。ごちそうになりまーす」
パトラは、とっても嬉しそうに私の腕にしがみついてきた。
……確かに男所帯、なのよね。臥せっていらっしゃるジェシカ様があまり表に出られないから、どうしてもクロード様とアルセイム様が主になる。クロード様にはブランドが、アルセイム様にはトレイスがついているから、パトラの周りには殿方が多い、と見ていいわね。
そこに、私とナジャが来た。それなりに年齢も……近いと言えば近いもの、ミリア様とかに比べれば。
そうね。パトラも今の様子を見ると、私がかまってあげた方が喜ぶみたいだし。
「それでは公爵閣下、アルセイム様。ひとまず、こちらは失礼致しますわ」
「ああ。ゆっくりお茶を楽しんでおいで、レイクーリア」
「パトラ、迷惑をかけるんじゃないぞ?」
「分かってますよーだ」
クロード様に砕けた言葉で答えながら、本当にパトラは嬉しそう。
ああ、私はアルセイム様のおそばにも、パトラのそばにもついていなければいけないのかもしれないわね。
……何か、変かしら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます