16話 持って帰ってご案内
行きは1台だった馬車を2台にして、グランデリアのお屋敷に戻った。使用人たちが慌ててやってくるのを確認して、ひとまずお屋敷の中に入りましょう。お荷物、じゃなくて盗賊の方々は、しっかり縛られていますからちょっとやそっとじゃ逃げられないしね。
「アルセイムお兄様、レイクーリアお姉様、お帰りなさいませー!」
「ただいま、パトラ」
「あら。ただいま、お出迎えご苦労様」
扉を開けた途端、パトラが満面の笑顔でこちらに駆け寄ってきた。そのまま、並んで入った私とアルセイム様を両手にがっしと抱える形になる。まだパトラは子供だから、それでもう腕はいっぱいなのだけれど。
それはともかく、私たちが帰ったのがとても嬉しそうだったのが私も嬉しくなって、パトラの黒い髪を軽くなでた。艷やかで、とても美しい髪ね。……お母様似、なのかしら。
「良い子になさってましたか?」
「はい、もちろん!」
くすぐったそうに目を細めて頷いてから、パトラは私とアルセイム様の手を取った。そのまま、室内まで引っ張っていくつもりのようね。
「今日はね、ジェシカ伯母様のところでご本を読んでいたんですよー」
「ジェシカ様のお部屋で? 臥せっていらっしゃるのだから、あまり負担をおかけするようなことにはなっちゃ駄目よ」
「ちゃんと気をつけてますよー。でもでも伯母様、私が面白いお話とか読むと喜んでくれるんですよ」
「そうなの? なら、良いのかしらね」
本当に、パトラはジェシカ様のお部屋によく行っているようだ。お身体の加減が悪いのだからゆっくり休ませたほうが良いとは思うのだけれど、パトラの読書が気分転換になっているのなら……良いのかも、ね。
一方、アルセイム様はちょっと違った方向に物事をお考えなさったらしく、パトラに笑顔で問いかけた。
「パトラは母上のことが好きなんだな」
「はい。自分のお母様のことをよく知らないので、そのう」
「ま、まあ母上もパトラにかまってもらえて嬉しそうだしな。娘も欲しかった、と聞いたことがあるから」
そうだったわね。私もそうだけど、パトラも自身のお母様のことをあまり知らない。だから、ジェシカ様にお母様のイメージを重ねているのかも……あら、もしかしたら私もかしら。
「ああ。それで伯母様、お姉様とも仲がよろしいんですね!」
「えっ」
「……そうかもしれないわね」
たしかに以前、娘が欲しかったのよーなんて言われてとても嬉しかった記憶はあるわ。まあ、私がアルセイム様の妻になればジェシカ様にとっては義理の娘、ということになるわけだし……うん、それでいいのよね。ええ。
「2人ともお帰り。大事なさそうで何より」
「閣下。ご挨拶が遅くなってすみません、戻りました」
そんな話をしているところに、クロード様がブランドとあと数名の使用人を連れてお出ましになった。慌てて、帰宅のご挨拶をする。アルセイム様も、同じように軽く頭を下げられた。
「ただいま戻りました、叔父上。まあ、予想通りに来たんですがレイクーリアが頑張ってくれたので」
「ナジャとトレイスのおかげですわ。それに、アルセイム様が傷を癒やしてくださいましたし」
「何だ、やっぱり来やがったのか。単純だなあ」
私はできることをしただけなのに、アルセイム様は私のことを持ち上げてくださる。ああもう、本当に私はあなた様のためにもっと強くならないといけませんわね。
……そうして例によって空気の読めないナジャが、ちょうどいいことに説明をしてくれた。
「主様がぶっ飛ばした盗賊の連中、事情聴取に数名連れてきたんですよー。表の荷馬車に積んであるんですけど、どちらにお通ししたらいいですか?」
「事情聴取? そうだな……」
クロード様、ぶっ飛ばしたとか積んであるとかの言葉には反応なさらないんですのね。パトラのように目を丸くしているのが普通の方々の反応、と聞いたことがあるのですが。あ、アルセイム様はもう、慣れていらっしゃるので。
これも同じく平然としていたブランドが、「それでしたら」と口を挟んできた。
「1階の奥に、あまり使われていない『客室』がございます。よろしければご案内いたしますが」
「そこがいいか。ブランド、こいつら連れてご案内申し上げろ」
「承知いたしました」
クロード様のおっしゃったこいつら、つまり他の使用人たちを連れて、ブランドはすぐに表に出ていった。
この場合の『客室』というのはまあ、つまり座敷牢とかそういう意味合いのお部屋。一応エンドリュースの家にもあるのだけれど、私はあまり見たことがないわ。そういう部屋は、お父様とお兄様が利用するものと相場が決まっていたから。
そうしてナジャは、至極当然のようにクロード様にぺこりと頭を下げる。
「ありがとうございますー。助かりますっ」
「いやいや、うちの跡継ぎとその婚約者に手出しした連中なんだろう? 丁重におもてなしして差し上げないとな」
にやり、と笑ったクロード様のお顔はちょっと恐ろしかったけど、そのお話を聞きながら無邪気に笑うパトラの方が怖かった……というのは、内緒の話にしておいてね。
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