15話 お片付けはしっかりと
そうして、地面に這いつくばられた皆様はトレイスとナジャの手によって、きっちり縛り上げられた。猿ぐつわも噛ませたからか、皆様おとなしくしてくださっている。
「レイクーリア様。拘束、終わりました」
「主様ー、終了でーす」
「トレイス、ナジャ、ご苦労様」
2人にお礼を言ってから、隣に立ってくださっているアルセイム様に視線を移す。ああよかった、アルセイム様にはかすり傷ひとつついていないわ。
「レイクーリア、お疲れ様」
「アルセイム様。少し時間がかかってしまいましたわね、済みません」
「いや、そんなことはいいんだ」
私を見て微笑んでくださっていたアルセイム様のお顔が、ふと暗くなられた。まあ、私何か困ったことでもしでかしたかしら。
「怪我をしている」
「あら」
軽く握られた手首、そこから少し離れた腕にほんの僅かかすった傷があった。多分、槍の方あたりと戦っていた時に不覚を取ってしまったのね。でも、このくらいならすぐに治るでしょう。
「大丈夫ですわ、このくらいなら」
「そうはいかないよ。ちょっと動かないで」
そう思って腕を引こうとしたのに、アルセイム様は手を離してくださらなかった。そのまま、僅かににじんだ血の上に指を滑らせてくる。汚れてしまいますわよ、アルセイム様。
でも、そうはならなかった。
「刻まれし姿、元の有り様に紡ぎ治れ。戻れ戻れ、元の姿に」
アルセイム様が呪文を紡がれた瞬間、指を当てられた部分がじんと熱くなった。すぐに離れた指の下、私の肌は既に傷一つない綺麗なものに戻っている。
「ありがとうございます、アルセイム様」
「いや、俺にできるのはこのくらいだからな」
そう言えば、アルセイム様は癒やしの術を会得しておられたものね。この私に使っていただけるなんて思ってもいなかったけれど、ありがたくその恩恵を受けておくわ。この御礼は、いつか必ずお返ししなくては。
なんてことを考えていたら、アルセイム様の視線が私から外れた。まあ、目の前に盗賊の皆様が縛り上げられて転がっていれば気にはなるわよね。
「それにしても、本当にレイクーリアは強いな」
あら、私のことでしたの?
でも、アルセイム様に強いと言っていただけるのはとても嬉しいから、笑ってみせたわ。まだ、強いと言ってもらえるには実力不足なのだけれど。
「まだまだですわ。お母様はこれより多い人数を、たったお1人で叩きのめされたそうですから」
「修行あるのみですね、主様」
「……自分も修行しないといけませんね」
「ああ。トレイスも、期待しているよ」
そうね。私もナジャも、そしてトレイスももっと強くならなくては。皆で、アルセイム様をお守りするために。
さて、と。
「で、これはどうする? というか、どうしたい?」
アルセイム様のおっしゃる『これ』は要するに、転がされている盗賊の皆様のこと。どうすると言われましても、せっかく全員とっ捕まえたのですから決まっているじゃありませんか。ねえ、ナジャ。
「適当に数名をお持ち帰りして、裏を吐かせるのが一番ですねー」
「全員持ち帰るのは、少々手間ですものね。この街にも、衛兵はいるのでしょう?」
「ああ。なら、残りはそちらに突き出せばいいか」
ナジャと私の言葉に、アルセイム様は頷いてくださった。そうして、ご自身の侍従に目を向けられる。
「では、そのようにしよう。トレイス」
「呼んでまいります」
「ナジャ、トレイスが戻り次第荷馬車を1台借りてきてちょうだい」
「分かりましたあ」
トレイスがこの場を離れるから、ナジャは彼が帰ってきてから行ってもらうことにする。どちらかの侍従が一緒にいなければ、万が一ってこともあるものね。
「荷馬車?」
「はい。悪党積むだけですから」
きょとんとされているアルセイム様に、ナジャが説明をしてくれる。荷馬車以外にも人を載せる馬車だって借りられるけれど、この方々を運ぶだけだから荷馬車で十分だわ。ええ。
「荷馬車でも扱いはよろしい方ですよ」
「扱いが良い方、なのか?」
「ええ。人数が少なければ、お屋敷まで引きずって帰ろうかと思っていましたので」
アルセイム様、目を丸くされないでください。本当に1人か2人くらいでしたら、私とナジャで引きずってエンドリュースの家まで持って帰ったことがあるんです。内緒、ですけれど。
「それはあちこち擦り切れるからやめておこう。道に痕でもついたら問題だからね」
「はいっ」
ほんの僅かお顔を青ざめさせながら、アルセイム様がおっしゃったことに私は素直に頷いた。そうね、道が荒れたら大変ですものね、さすがはアルセイム様だわ。
そんな私の横でナジャは、盗賊の皆様に注意をしていた。
「皆さーん、聞かれたことにはちゃんと答えてくださいねえ?」
「……っ!!」
ナジャにそう言われた盗賊の方々、全身を震え上がらせているわ。まあ。
にっこり、と笑ったようにしか見えなかったんだけど、盗賊の方々にはナジャの笑顔はどんな風に見えたのかしら。後で、お尋ねしてみましょう。
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