14話 軽く暴れてみましたわ
「参ります」
私が一歩踏み出すと、盗賊の方々はそれぞれに武器を構えられた。大きめの剣や槍、棍棒をお持ちの方もいらっしゃるわね。
ただ、守りが薄いわ。皆様、せいぜいなめし革の胸当てとかですもの。これでもエンドリュースの守備隊、金属鎧の兵士を相手に鍛えていたのよ、私。
「はあっ!」
「ぐぎゃ!」
「ごっ」
「ぶおっ」
だから、私が一気に踏み込んでメイスを首筋に、腹に、肩口に叩き込んで差し上げればあっさり倒れられた。一応手加減はしたのだけれど、骨が折れたかもしれないわね。
まあ、自業自得と思し召せ。
「この女!」
あら、私を挟んで前後から同時攻撃ですか。ええ、私1人ならどうにかなったかもしれないわね。でも、私が前から来られた方の刃を受け止めている間に、後ろにはトレイスが入ってくださったわ。
「ふっ」
「ぐげっ」
背後はトレイスにお任せして、私は目の前にいらっしゃる方の腹に思い切り蹴りを差し上げる。エンドリュースの女はこういうときのために、高いヒールの靴ではなく厚手の底がついたブーツを履くことにしているのよ。ドレスはもう、普段から着ていますから裾さばきくらいは慣れているし。
「邪魔ですわよ、おどきなさい」
「ごぼっ!」
身体をどかすために、メイスで横に押し出した。痛かったらごめんなさいね、と思いつつ、ついでに突っ込んで来られた方にぶつけましょう。
ちらりと振り返ると、トレイスは既に3名を叩き潰していたわ。なんて早業、私はまだまだね。
「さすがね、トレイス」
「お褒めに預かり恐悦至極!」
私が賞賛の言葉を送ると、トレイスの顔に笑みが浮かんだ。あら、アルセイム様には及ばないけれどなかなかの男前じゃないの。よい伴侶を迎えてあげられるとよいのだけれど、ねえ。
そういえば、アルセイム様は大丈夫かしら。ナジャを付けてあるから当然、何ともないでしょうが。
「だーかーらー、アルセイム様に手出しすんなっつってるでしょうが!」
ほらね。5名ほどが、アルセイム様に向かって弾き飛ばされている。
アルセイム様の周りには、ナジャが生み出した結界が張られているわ。襲ってきた方々も目的は私でしょうし、アルセイム様に傷をつけるなんてことはお駄賃には入っていないと思うのだけれど、ついテンションが上がってしまうと余計なところに手を出したくなるんですものね。
それを防ぐために、ナジャにアルセイム様を守ってもらっているんだから。
「済まない、ナジャ」
「良いんですよう。アルセイム様に何かあったら私、主様にお説教されちゃいます!」
「そんなことしませんわよ!」
何を言っているのかしら、ナジャったら。まあ、お説教しない自信は……正直、ないのですけれど。あ、それよりそこの棍棒のあなたとあなた、邪魔ですわよ。
「ぎゃっ!」
「ぐぁっ!」
あらあら、飛びかかってきたせいで少し狙いがそれてしまったではないですか。お腹を叩こうとしたのに、少し下にずれてしまったわ。ご愁傷様。
なんてことをやってる間に、あと1人になってしまいましたわね。槍を使って、他の者がやられるまでおとなしくしてらしたあなた。
「このクソアマあ!」
「あらあら。頭だけかと思いましたら、お口まで悪いのですね」
せっかく槍を使っていらっしゃるのだから距離を取ればいいと思うのに、どうして突っ込んで来られるのかしらね。突き出された槍も、龍神様のメイスで簡単に折れてしまったし。
「なっ!」
「あなたで最後ですわ。お疲れ様でしたっ!」
折れた槍にぽかんとしておられた少々間抜けなお顔に、ブーツの底を叩き込んで差し上げました。地面に大の字になられたそのお顔に残った靴跡、ちょっとはしたないですわね。
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