4話 グランデリアのお屋敷へ
そんなこんなで、ほんの10日も経った後。
私はナジャを連れて、グランデリア公爵邸の門をくぐっていた。もちろん馬車に乗ってだし、大切なメイスは手元に置いてある。
途中で1度だけ盗賊が馬車を襲ってきたんだけれど、お父様やお兄様に教わった全力スイングで全員なぎ倒して終わり。すぐ側の街の衛兵に引き渡してきたけれど、大丈夫だったかしら。
まあ、終わったことは気にしないでおきましょう。グランデリア邸にいる、ということは言い置いて来たしね。
「盗賊なんかはいいんですけどー。あのお屋敷がグランデリア公爵邸ですかあ?」
「ええ、そうよ。……うーん」
馬車の窓から近づいてくるグランデリア邸を見ていたナジャの言葉に、私も外を見る。あら、変ね。
何が変、と言われると特に何も、としか言いようがない。だけど、何か変、な気がする。
「何がおかしいのかしらね」
「んー。分かんないですけど、中を調べれば分かる気はします。多分、主様がどうにかできるかと」
「そう? それなら、安心ね」
ナジャの勘は、さすが龍なだけあってよく当たる。まだまだ人生、というか龍生経験は少ないそうだから、実際に相手を見破るのは得意ではないらしいのだけれど。
でも、最終的に私がメイスを振るってどうにかなるのであれば、それは安心だわ。……そこまで、時間は掛かりそうだけど。
何にせよ、アルセイム様のお住まいに何か事があるのであれば、私がそれをどうにかして差し上げなくてはね。アルセイム様のためには、うん。
ひとまず『変な感じ』のことは、私とナジャの間でだけの秘密である。
「やあ。よく来たね、レイクーリア嬢」
「ご無沙汰しておりますわ、公爵閣下」
玄関先まで私を出迎えてくださったのは、現在のグランデリア公爵閣下。先代公爵、つまりアルセイム様のお父様の弟君であらせられる、クロード様だ。私は……先代閣下とお会いしていた時に一度紹介されたくらいだったかしらね。
大柄で、黒に近いブラウンの髪を背でまとめたクロード様は、人懐こい笑顔で私に頷いてくれた。確かに、以前お会いしたときもこんな感じだったわね、と思い出す。ああでも、失礼ながら今一番お会いしたいのはあなたではないのだけれど。
と、クロード様が私から少しだけ視線を外された。ああ、そう言えばナジャとは初対面でしたわね。
「こちらは」
「私付きの侍女のナジャです。気心も知れておりますので、連れてまいりました」
「よろしくお願いします!」
……礼儀も何もあったものではない、わね。まあ、きちんと頭を下げてくれたから良いとしましょうか。クロード様も、肩を軽くすくめただけで収めてくださったことだし。
「なるほど、そうだな。エンドリュースとは勝手が違うかも知れんが、よく働いてくれよ」
「お任せくださいませ」
よく分からないけれど、クロード様にはナジャが普通の、ちょっと行儀の悪い侍女に見えているのかしら。まあ、正体がバレるとややこしいことになるでしょうしね。その辺りは、龍女王様も重々言い含めておられるようだけれど。
と、クロード様が背後を振り返られた。その向こう、視線の先におられる姿に私の眼は吸い付けられる。
「アルセイム、俺より先に出てきて構わんのだぞ」
「それは、叔父上に失礼ですから」
「婚約者を出迎えるのに、失礼も何もあるか」
困ったように、クロード様の後ろから出てこられた金の髪のアルセイム様。黒髪の侍従、確かトレイスという名前だったはずの青年を従えた彼は、2年前よりもさらに麗しく気高くなられていた。背も、大柄なクロード様と遜色ない。
ただ、ちょっとお顔が憂えておられる気がするのが、心配だ。やはり、何かあったのかしら。お父上が亡くなられたことを、まだ気に病んでおられるのかもしれないけれど。
けれどアルセイム様は、私に気づくとぱっと笑顔になってくださった。花のような笑顔とは、まさにアルセイム様のためにあるような言葉だわ。ええ、本当に。
「……レイクーリア。久しぶり、だね」
「はい。お久しゅうございます、アルセイム様」
いけないいけない、アルセイム様のお顔に見とれている場合ではないわ。男爵令嬢として、きちんと礼をしなくては。
「ナジャも、元気そうで何よりだ。レイクーリアは相変わらずだったかい?」
「はい、もちろんです。若様にお会いできる日を、ずっと楽しみにしていらっしゃいましたよ」
「そうか。待たせたね、ごめん」
ナジャとも、普通に言葉をかわしてくださるアルセイム様。ああもう、あなたが謝罪の言葉を口にするなんて、とんでもないことだわと思う。先代閣下のご不幸は、アルセイム様のせいではありませんもの。
アルセイム様の一歩後ろに控えているトレイス、あなたもそのくらい、言って差し上げられなかったのかしら……無理ね。ナジャと違ってトレイスは、とてもとても真面目だもの。
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