第10話 大切な時間
「ついたぜ、ここが師走テーマパークだ」
「おお、こんなに人がいっぱいいるんだ〜すごいね本当に」
西沢は今までテーマパークには来たことが無かったんだろう。
まあ、俺といる時は無邪気なやつだが、普段はおとなしい方だからな。
だから友達と一緒にここに来れたことがすごく嬉しいんだろうな。
「ねぇねぇまずはどこ行くどこ行く?なんかさスリリングなところ行こうよ」
「そうだなあ、あのでっかい船みたいなやつに乗ってみるか」
「えー、なんか揺れてるだけじゃない?」
「乗ってみれば分かるさ」
俺と西沢はそのアトラクションのところへ行き船に乗った。
当然このアトラクションに乗ったことがあるから、
あえて端の方に座ることにした。
「よーし、じゃあ初めてのお前がいるからまずは端っこに
座るとするか〜」
「えー、せっかくだから真ん中に座ろうよ」
「まずはお試しコースってやつだ」
柵が閉まると船は前後に揺れる。最初のうちはそこまで勢いはない。
「ねぇ、もっとスリルがあってほしいな」
「もう少し待ってろ」
このアトラクションの船の揺れは次第に大きくなり
俺たちの位置は端だから中心よりも勢いは強く感じる。
「ギャ〜ちょっとこれはスリリングすぎるよ。おろして下ろして」
「ほら、最高にスリリングだろ」
船の揺れが小さくなりアトラクションの柵が開いた時には
すでに西沢は上の空状態だった。
「テーマパークってこんなにすごい場所なんだね…」
まあ、何も知らない西沢からすればテーマパークは
スーパーアトラクション広場って感じだと思う。
「じゃあさ、別の意味のスリルを味わってみるか?」
「別の意味って!?もっと恐ろしい場所があるの!?
バンジージャンプとか無理だがらね!」
「どこのテーマパークだよ」
フラフラな状態の西沢の歩くペースに合わせながら
お化け屋敷についた。
「今度は肝試しってやつだ。これなら大丈夫だろ」
「ほんとほんと?いくいくー!」
こういうところのお化け屋敷は怖さもあるが、その雰囲気ってやつを
楽しむのがポイントだ。まあ、それできゃーきゃー騒ぐのもアリだがな。
「見てみて、人魂がいる〜私たち黄泉の世界にでも来ちゃったのかな?
うわーなんかいっぱい怖そうなのいるーすごいよかつやくん」
「こいつはいいお客さんだな、ほんと」
アトラクションを回った後は昼食をとることにした。
あっちこっち歩くのに疲れたから空いてる席にてきとうに座った。
「お前何が食べたい?ちょっとぐらいなら奢るぞ」
「いやいやー、今日のためになんと!お弁当を作ってきたのですよ。
さあさあ、いっぱいお食べ」
「テーマパークに来てお弁当か。まあ、悪くないよな…」
二人分のシンプルなお弁当箱をそれぞれ手に取った。
「いつものノリならここでとんでもない食べ物が出てくるのかな」
「いや、そりゃないよ。普通のお弁当だよ」
確かに中身はご飯、肉団子、卵、トマト、野菜、といった
普通の弁当だった。もしかして塩いっぱいかけちゃった。
とか味のオチみたいなものがあるかと少し警戒したが
本当に普通の味の弁当だった。
「どう?美味しい?」
「ああ、普通に美味しかった」
「よかったー、今日朝はやく起きて頑張って作ったんだよ」
だから朝俺の家に来るのがあんなに早かったんだ。
俺たちは夕方まで遊びつくしたんだ。いろんなアトラクションに乗るたびに
西沢の世界は広がっていく。人っていうのはこうやって色んなことが
分かるようになるんだと思う。
そして俺たちは帰り道もいつものように帰る。
デートか…。確かに俺たちは遊びながらお互いを意識してドキドキしたり
手を繋いだりはしていない。でもこの西沢と過ごした時間は刺激は無くても
すごく楽しかったんだ。とても大切な時間だったんだ。
俺はこんな普通の日々を守りたい。
そう強く思ったんだ。
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