第5話 君がくれた心の安らぎ

この日の放課後までの時間は異常なくらい長く感じた。

クラスのみんなの視線が重く俺の心臓は押しつぶされてる気分だった。

その放課後の時間まで俺はずっと下を向いていた。

西沢はそんな中ずっと心配してくれて時々俺の方を向いていたんだ。

「放課後になったよ。かつやくん、一緒にいこっ」

「ああ、分かった。部活終わる頃にまた部室にくるよ」

「うーん、よし!今日は部活休んで2人でどこかに遊びに行こうよ

こういう時こそ息抜きが大事だよ」

「でも俺、今はそんな気分じゃ…」

「いいからいいから」

そういって西沢は俺の手を引いてさっさと廊下をかけていった。

「そういえば千秋はどうだった?」

「もう、そんなことは今はいいからさ」

西沢に強引に腕を引っ張られ学校の外に出た。

「えっと、どこ行こっか?」

「決めてないのかよ」

西沢のそういった抜けたところを見ると体が少し軽くなるのを感じた。

「じゃあさ、カラオケにでも行こっか。私歌うの得意なんだよ〜」

西沢とはいつも学校の通り道は一緒に通うが、2人で遊びに行くのは

初めてだった。

「ここがカラオケハウスなんだ〜」

「おいおいカラオケに来たこと無いのか、場所知ってるくせに」

「ないよ!」

「ないのかよ…」

わざわざカラオケに連れてきて、実際その本人がカラオケ初めてとは

相変わらず抜けてるな…。だがそれが西沢のいいところかもしれないな。

いつも一緒にいるから全く気づかなかったが、状況が変わると

人ってこうも見え方が変わるのか。それを強く実感した。

「へぇカラオケって中はこうなってるんだー。ねぇ何歌う?」

「俺からなのかい!」

いざ曲を選ぶとなると、場の空気を考えるとどうしても西沢に聞かなければ

ならないことがあった。

「西沢はどんな曲がすきだ?」

「えっとね、アニソン!」

「そうか」

仮にここで雰囲気に合わない曲を歌えば空気が台無しだからな。

こういう時は相手の歌いたい曲を知っておく。

これって結構大事なんだな。

俺が歌い終わった後、西沢は上手上手と拍手をした。

問題はこいつの番だ…。

「お前そういえばカラオケきたの初めてだよな」

「うん、そうだよ」

「お前歌得意なんだっけ…。誰がうまいって言ったのか?」

「当然!小学校のころね。音楽の時間で思いっきり歌ったら

西沢さんはダイナミックな声してるねって褒められたんだ〜」

「あはは…それは是非聞いてみたいなー、歌ってくれー」

「頑張るよ〜」

このカラオケで過ごした時間の中、

俺はジャイアンリサイタルがどれだけおぞましいものだったのかを

実感できた気がした。

「今日は楽しかったね。また来ようね」

「ああ、楽しかったよ。だが次は別のところ行こうな」

息抜きのはずの時間がとても疲れが溜まった時間だった気がした。

でもその疲れは心地よい疲れだった。

「どう?気持ちは楽になった?」

「え…」

「すごく心配してたんだよ。これでも、ちょっとは気晴らしになった?」

そうか、俺は西沢のおかげで気持ちがこんなに落ち着いているんだな。

すごく安らぎを感じたんだ。さっきまでの出来事が嘘だったかのような。

「俺さ、決めたよ。佐野さんと千秋ともう一度話をする。

そして今回のことをちゃんと謝るよ」

その言葉を聞いた西沢は小さな笑みを浮かべた。

「うん、かつやくんならダイジョーブだよ。じゃ帰ろうか」

もし俺一人だったら何もできなかっただろう。

何もかもが崩れていっただろう。

そう。お前のおかげで俺は勇気を出せたんだ…。












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